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だって、私は見てしまった。
友だちの表情だけでなく、断ると言っていたはずなのに注射の痕があるのを…。
『ちょっと冷静になってみよう。私。』
友だちは断らずに実験に参加することにした?
でも、その割に暗くて泣きそうな顔に見えたよ?声かけても答えてくれなかったのは何で⁇
冷静になろうとすればするほど、ここから逃げた方がいいという結論になる。
だから、ここからどうすれば逃げられるかをシュミレーションしてみる。
『このまま逃げちゃおうか…。いや無理だ…。』
そう、トイレに案内されるだけでなく、終わって出てくるまで見張りのようにさっきの白衣の女性がいる。
『それに、友だちを残したままなんてできないし…』
『調子が悪くなったことにしたらどうかな?』
そのまま逃げ出せないのだとしたら、それが一番のような気がした。
『よし、決まった!それでいこう!』
ゆっくりとトイレのドアを開けた。
そして、手を洗い終えて演技を始める。
「あ…あの、ちょっとお腹の調子がよくなくて。このまま帰ることはできませんか?」
「それは大変ですね。ちょうど、先生がいらっしゃるので診てもらったらいかがですか?」
「あの、時々なることがあるので少し休めば大丈夫で…先生に診てもらうなんて大袈裟なことは…」
「では、ベッドがありますので少し休まれますか?」
『そうきたかー。』
思わず、心の中で大きく呟く。
「いや、本当に大丈夫です。心配していただき、ありがとうございます。自分で帰ることはできるくらいなので。」
そう白衣の女性に声をかけた。
「そういう訳にはいかないんです。この会場にいる方は選ばれた方なので…」
そういうと、私に近づき肩を抱いた。
他からみたら、体調が悪い人を支えているように見えるかもしれないが、私は逃さないようにするためにしている動作のように感じた。
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