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コツリと軽い杖の音に、ドスリと大きく地を踏む音。それらを掻き消すほど力強い声が、玄関に響き渡る。
「よーし! じゃあ今日も行きますかー!」
可愛らしい声には、顔と同じくらいの煌めきが宿っていた。
迷いなく内鍵を回し、ドアを開ける姿には未だに感心してしまう。マイナスな要素を想起させてしまう為、敢えて口にはしないが。
でも、玄関先の段差も少しくねった石畳も、すいすい進んで行くものだからやっぱり注視してしまった。
「降雪着いてきてるー!?」
「うん、大丈夫だよ夏夜」
僕らの名字が乗る表札の前――決まってここで確認してくるのにも毎回驚く。
時刻はちょうど午後三時、太陽光が大いに景色を引き立てる時間だ。
進み始めた背中を、同じく杖と足の音を付き添わせ追う。足音の発生に違和感を覚えながらも、置いていかれないよう前と下を忙しく見た。
決まった歩幅、決まった道順。決まった隊形で向かうのは散歩のための道だ。
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