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無人の道路を約三分、進めばすぐに辿り着く。目的地到着と同時に、自然と横並びになった。僕が右側で夏夜が左側だ。
一応公園と称されてはいるが、遊具の類いなどは一切ない。歩行用に伸びるコンクリートの道を、並んだ木々が挟み込むだけの簡単な設計だ。
あまりに質素ゆえ、人々にとっては背景の一部に過ぎないのだろう。ほとんど他者を見かけることはなかった。
なんて、以前の僕らもただの通過点にしていたのだけど。
第一に目にした地面も、第二に見上げた空中も、多くの面積を暖色が覆っていた。
少し冷たい空気が、僕たちの横をかけて行く。網目模様の木漏れ日が、地面にて揺れた。
「んん~! スッキリして穏やかな匂いがする!」
声に引かれ目線をやると、夏夜は大胆に匂いを嗅いでいた。鼻を鳴らし、満足げに“本日の香り”を表現する。彼女の独特な解釈を理解すべく、僕も大きく鼻から息を吸った。
通過する冷たい空気に紛れ、樹木のほんのり湿気った香りがいる。
「なるほど、いい匂いだね」
「ねー! 木の色は変わった?」
条件反射的に再び上空を仰いだ。脳内に残る景色の残像を読み込み、真剣に比較する。次に、見つけた違いを表現する言葉を探した。
適当でも彼女は納得してくれるだろう。しかし、僕が納得できなかった。
「あんまり。けど先週と比べたら確実に赤くなったよ。あ、でも空の面積は増えたかな」
何とか言語化すると、夏夜から努力を報う笑みが弾け出る。
「大分散ったんだね~。じゃあその空は!? どんな色?」
この表情を前にすると、難問にだって何度でも答えたくなった。
「濃い目の水色に一滴灰色を混ぜたような感じかな」
「綺麗~!」
美しい相貌が、大袈裟なほど上へと向く。あまりにまっすぐな視線が、闇を見ているだなんて未だ時々疑いたくなる。
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