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 くっついてしまったのは、不安だっただけじゃなくて、本能的なものだ。  職員室で亜蓮を見た時、思わずその胸にすがりついてしまったのと同じ。  亜蓮の近くにいると、落ち着くのだ。  こうしてくっついていれば尚更。  ドキドキもするけど、すごく、すごく落ち着く。  『灯里さん』と名前で久しぶりに呼ばれた嬉しさもあり、いつも持っている自制心が、撚れてひしゃげてしまった。  それでつい、わがままを言いたいような気持ちになった。  だから、どうしたら安心出来るかという問いに。   「えっと……あの、せ、先生が……亜蓮くんが、一緒にいてくれたら」  耳まで赤くなっていることは自分でも分かっていた。  激しく鳴る鼓動が、自分の声さえ掻き消しそうだった。  か細い声は、亜蓮に届いたかすら怪しかった。  『亜蓮くん』と呼ぶのは数ヶ月ぶり。  中学生の時にご近所づきあいで話していた頃以来だ。  学校では『美蜘蛛先生』とちゃんと言い分ける。  でも、今は、ふたり。  ふたりだけ、だから。  だから。
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