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 これまでの数々の思い出を振り返れば、想いは溢れすぎて言葉で表すことは難儀だった。  思いがけず早産で生まれた灯里……つぶらな瞳で雪のような色白さで、赤ん坊の頃から美人になると評判だった。  活発で、愛嬌抜群だった幼児期、祖母と反発しながら、母を労わってくれた思春期。  いつもいつでも、誰にでも優しく正義感が強かった娘。  この子がいなければ、家での孤独は更に深まり、人生はもっと無意味に思えていたかもしれない。  互いに両目に涙が滲んでいた。  けれどこの涙を、悲しみの涙で終わらせるわけにはいかない。  継ぐ言葉を探り、無音になる中、亜蓮は穏やかに基子に言った。 「そういえばご主人のことについて、説明をしておきます。先程、私は偽の記憶を彼の中に形成しました。彼の中では、灯里さんは他県の資産家と結婚したことになっています。結納金がたくさん贈られたことになっていますが、その分は私がこれまでの貯蓄から工面します。それで恐らく、当面の間は彼の気も晴れるはずです」 「…………!」  亜蓮の言葉に、記憶のすり替え作業が行われたことを知った基子、そして灯里は驚愕で目を見開いた。  灯里は、以前、神経毒でそのようなことが出来ると亜蓮から直々に聴いていた。  けれどまさか、それが本当に行われようとは全く想定もしていないことだった。
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