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 実の父の記憶を塗り替えるなんて信じられない。  と、普通であれば思うのかもしれない。  けれど灯里はその言葉を聴いて……それが父にとって、もっとも温和な未来に結びつくのであれば、それでいいのではと思った。    あの社会的立場を、村の中での体裁を酷く気にする父だ。  土蜘蛛に嫁いだなどと揶揄されるより、その方が、ずっと。    基子もまた、その事実を柔軟に受け止めることが出来たようだ。  胸の霧が晴れたような笑顔を浮かべると、恐れることなく近くから靄の中に立つ亜蓮を仰ぎ見た。   「あなたはそんなことも出来るの……じゃあ……佳澄さんのことも、そうだったのね。そういったことを美蜘蛛宮司にもしていたんでしょう。だから、なのね……」    基子にとって、知り合いであった佳澄のことはずっと気がかりであった。  二十五年前の事件の後、基子は佳澄が亡くなったことを感じ取っていたが、村では行方不明として片付けられていた。事件自体も不気味なほどなかったことのように潜められていて、それはとても薄気味悪いものだった。  数年前、亜蓮が村にやってきて宮司が孫だと話した時には内心仰天したが、口には出さなかった。  実は生きていたのか、行方不明ではなかったのか、ではどうしてこれまで秘密にされていたのか……様々な疑問があったが、ぶつけられる相手がいなかった。  
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