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 けれどそれが、亜蓮の記憶操作によるものだとしたら。  美蜘蛛宮司は嘘を言っていた訳ではなかったが……その記憶は、宮司の理想的妄想であったのだ。 「美蜘蛛佳澄は、私の母です。母は二十五年前の例大祭後に亡くなりました。おじい様には気の毒ですが、私がここに戻るためには記憶の改ざんが不可欠でした。普段は使わないようにしている能力です。灯里さんにはもちろん、使いません」 「ああ、そう。やっぱり………いいえ、そのことを責めているわけではないのよ」  感慨深げに、基子は目を細め、うっとりと溜め息をついた。  意識を集中して見るうちに、二人の姿は徐々にくっきりと浮かび始めた。  亜蓮の蜘蛛の巨体は決して美しくはないが、覗いて見える人間仕様の首、顔は彫りが深く美しい顔立ちをしていた。 「うん。目鼻立ちが、どことなくお母さんに似ているわ。澄んだ瞳も。色は違うけど、雰囲気がとっても似てる。綺麗な顔立ちね」 「……ありがとうございます」  亜蓮は素直に感謝の言葉を口にした。  出産直後に亡くなった母の顔は覚えていない。  けれどもその面影を認めてくれる人がいたことは喜びだった。  亜蓮は気を引き締めるように唇を結ぶと、基子に今後の事態収拾についての助言を与えた。
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