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「先程、神楽殿の中で私が対峙した男達全員には神経毒の針を打ち込んでいます。記憶を変えるまでには至りませんが、この数日ほどの記憶は曖昧となるはずです。土蜘蛛のことでとやかく聴かれると思いますが、私のことはともかく、灯里のことに関してはうやむやにして下さい。あの村長の倅がいろいろ噛みついてくるかもしれませんが、灯里は県外の人間の元に嫁いだ。それを事実として繰り返し話し、村に浸透させてほしいんです。それは灯里がもし、仮にですが……里帰りが可能となった場合に、それが不自然とならないようにするためです」 「私の記憶は、改ざんしなくていいの?」 「する必要がありますか?ご主人と会話を合わせるのが辛いなら……考えますが」 「……いいえ、それなら大丈夫。私はいつだって、内容を選びながらあの人と話をし、生きて来たんだもの。辛いなんてもう思わないわ」 「けれど、実質問題……私が振り込んだ金銭も数年で消えるでしょう。後継ぎがいない現実では、ゆくゆくは苦しい生活を強いられるかもしれません。もし、彼からのパワハラに耐えられないようであれば……あなた自身も第二の人生を別の場所で暮らす選択を行っても、罪にはならないと思いますよ」 「ありがとう。でも、ここを離れたら、灯里が帰ってくる家も無くなるわけでしょう」 「そうですね。帰郷の可能性はゼロではないですが、しかし……」
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