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深い安堵を覚えると同時に、それまで無視しようと努めていたネガティブな感情が露わになってくる。
目の前で人が殺されそうになった、事実。
犯人も、その犯行の意図も分からない不安。
穏やかでない心境に陥った灯里はつい、亜蓮のその、骨太な逞しい腕にぎゅっとしがみついた。
「灯里さん?どうしました?……そんなに今回の事件は、ショックでしたか」
「えっと……はい。……だって、だって」
あの毒針が、もし数センチずれていたら。
無差別殺人だとしたなら、同じ目に遭っていたのは、今頃自分自身だったかもしれない。
運よく岩坂に当たったというだけで、実は自分が狙われていたかもしれないのだ。
「まあ確かに不安は残りますけどね。犯人の意図が掴めない以上はどうにも……でも、そうだな。これは私の勘だけども……多分、灯里さんが狙われたのではないと思いますよ」
「どうしてですか?」
「え?まあ……勘ですけど」
「勘って……!そんなんじゃ全っ然安心出来ないです」
「ははは、まぁそうですね。ええと……うーん……じゃあ、どうしたら安心出来るかな」
「………………」
穏やかで優しい口調と、身体の近さに舞い上がるような心地だった。
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