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日が完全に沈み、存在感を放ち始めた初更の月は半分が雲に隠れて朧だった。
まばらに設置された外灯はライトカバーが古いのか放つ光は鈍くくすんで、ぼんやりとその周囲のみを照らしていた。
仄暗い駐車場は静謐で、人の気配は無かった。
亜蓮の愛車はルノーのカングーだ。
フランス生まれのワゴンはデザインが良く車高が高めで、異邦人っぽくて身体の大きな亜蓮にはぴったりだった。
助手席のドアを開きながら、亜蓮は腕にくっついたままの灯里を覗き込むように、穏やかな声で囁いた。
「私でいいんですか?」
「………えっ」
額に仄かな熱を感じ、ハッとして顔を起こした先に亜蓮の唇があった。
微かながら、額にキスされたことを理解する。
何が起こったのか分からず、赤面して直立不動になった身体を、背を、「ははは」と笑いながら亜蓮が押して助手席に座るよう促していく。
「まあ、今日のところはいろいろ悩まずに、ゆっくり休んで下さい。大丈夫ですよ。きっと無事に劇は開催出来るでしょう」
「え?え、え、と………あ、ああああ……」
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