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「私はね、主人のことは初めから異性として見ていないし、どちらかと言えば嫌いではあるのだけれど、この村で暮らすことは……好きなのよね」 「舞蜘蛛村を……ですか」 「そう。いろんな辛いこともあったけど、乗り越えて来られたのには、灯里の存在に助けられただけじゃなくて、この土地に癒された、というのも大きいの。この村の美しい景色、朝焼け夕焼け、金色に輝く稲穂、澄んだ川のせせらぎ、風光明媚なこの村の全てが、これまで私を励まし、癒してくれた。だから私は出来れば、人生の最期までここで暮らしていきたいと思う」 「………………」  柔らかだけれども、強い意志を秘めた瞳。  灯里に通じるものを感じ、亜蓮は無言で微笑み、首肯した。 「……では、この村の全蜘蛛の加護があなたに付くように計らいます。鎮守の杜を水没させるダム建設は、村長の引退により進捗が遅れるでしょうが、完全撤退とまではいかないかもしれません。私達がもし、帰ってくるとなった場合に、鎮守の杜、聖域にゲートを設けることが必須要件になります。つまり、森が水没してしまえば、私たちは帰って来れなくなるのです」 「え?ゲート?帰って来れない……?」 「はい。ですから……単刀直入に言います。基子さん。良ければ次回の村長選挙に出馬してくださいませんか」 「え……っ?」  突然の亜蓮の薦めに、基子は驚き、息を飲んだ。
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