(1)初めての彼女

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(1)初めての彼女

 岡山の男子校から多摩理科大学に合格して上京、理系の大学には女子が少ないと聞いていたが、特に数学科は数人しかいなかった。これまで女子と交際する機会もなく、大学でも半ばあきらめていた。夏休みに入ってコンビニのアルバイトの面接に行くと、同じく面接に来ていた青葉大学の彼女がいた。セミロングの髪が小顔に似合っていて黒目が愛らしく、体型はぽっちゃりタイプで丸く形の良い胸が印象的だった。  同じ年齢でもあり、俺たちはすぐに意気投合し仲良くなった。バイトのシフトを合わせたり、帰りに待ち合わせしたりして毎日のように会っていた。始めの内は帰り道を共にする程度だったが、次第に食事を一緒にするようになり、楽しい日々を送っていた。ただ女の子と付き合った事のない俺は、この先どうして良いのか分からなかった。バイト先の先輩に相談すると、 「告ったのか?まず告白して、相手の気持ちを確かめるんだよ。OKならば、デートの時に手をつないで、チャンスがあればキスして、慣れてきた頃を見計らって家に連れ込めば良いんだよ」 「連れ込んだ後は、どうすれば良いんですか?」と野暮な事を聞いて、先輩にあきれられた。 「誰か、好きな人がいるのか?俺は、汐梨ちゃんをねらってるんだけどな」と聞かされ、この人に相談すべきではなかったと後悔した。同時に、早く何とかしなければと焦りを感じた。  しかし、思ったように事は進まず、手をつなぐ事もましてやキスもできず、2ヵ月のバイトが終わろうとしていた。このままでは男が(すた)ると思い、バイトの最終日に思い切って打ち上げをしようと誘った。 「いいね!どこで?霜川君の家にしようよ!遊びに行く約束、まだ果たしてないし」  俺は汐梨の提案にしめたと右腕を引き、頭の中はエッチな妄想で満ちあふれていた。  当日はバイトを早めに上がらせてもらい、コンビニで飲み物と食べ物を買い込んで俺のワンルームマンションに向かった。彼女は部屋に入ると、平然と内部を観察してベッドの下までのぞき込んでいた。その慣れた様子が気になって訊くと、男子の部屋に入ったのは初めてではないと悪びれずに答えていた。しかもそれは高校時代に付き合っていた彼氏の部屋で、そこで何をしていたのかを想像して複雑な気持ちだった。  ジュースとお菓子を食べながら、高校時代のエピソードや大学の様子などをしゃべった。先輩のいうチャンスが目の前にあるのに、とてもその雰囲気に持っていける行動力は俺にはなかった。2時間が経過し、 「そろそろ帰ろうかな!」と彼女が言い出した。踏ん切りがつかないまま思いあぐねていると、 「わたしたち、これからどうなるのかな?付き合ってるんだよね」と彼女から問われた。 「女の子と付き合うのは初めてで、どうしていいのか分からないんだ」と正直な気持ちを吐露(とろ)すると、 「彼女として認めてくれるなら、まずはキスだよ!」とナイスな答えが返ってきた。俺は動揺しながらも彼女に近付き、唇に的を定めてキスをした。緊張のあまりに震えているのが自分でも分かったが、彼女の唇は柔らかく甘い後味が残っていた。
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