(3)彼女との別れ

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(3)彼女との別れ

 そんなラブラブな俺たちに、別れの兆しが見えてきたのは大学2年生になってからだった。それまでは、子どもがテレビゲームに夢中になってご飯を食べる間を惜しむように、セックスをするために会っていた。汐梨のセックスへの探求心は俺以上で、いろんな体位やオーラルセックスに積極的だった。俺も最初の内は二人でする秘め事が楽しくて快感に身を任せていたが、彼女に支配されているような感覚は否めなかった。また、そのせいで俺の学業成績は散々だったが、彼女は優秀な成績で単位を取得したらしかった。  2年生になって汐梨はゼミに入り、俺は実習が忙しくなったのと家庭教師を始めたのとで、会う(セックスする)時間が半減していた。彼女とのセックスは素晴らしかったが、その頃の俺は、それだけの関係に飽き飽きしていたというのが正直な気持ちだった。  6月の中頃、教え子の女の子と本屋で参考書を物色して帰る途中、汐梨が男子と肩を寄せ合って相合傘で歩いて来るのに出くわした。その男子はしっかりと彼女の肩を抱き、彼女は満更でもなさそうだった。一瞬視線が合ったが、お互いに知らん顔をして通り過ぎた。翌日、真相を確かめるべく会って話をしたが、二人の言い分はかみ合わずに決別した。この事が決定打になったには違いないが、俺たちの関係はすでに行き詰まっていて潮時を待っていたのだと思った。  汐梨と別れてからかつての生活に戻り、男子の友人は何人かできたが、女子との交流はほとんどなくなった。強いて上げるならば、家庭教師の生徒の光岡(みつおか)朱里(あかり)が唯一の女子だった。 朱里は高校3年生で多摩理科大の薬学部を目指していて、数学が苦手だという理由で家庭教師を頼まれた。彼女の父親と俺の父とは大学時代の親友で、否応(いやおう)なく引き受けざるを得なかった。朱里は消極的で控え目な性格で、どちらかと言うとおとなしいタイプの女の子だった。身体つきはすらりとしていてスタイルが良いが、胸や尻に肉が付いていないのが惜しかった。汐梨とは性格も身体も真逆で、彼女に特別な感情を抱く事はないと思っていた。  家庭教師は7時から9時までの週二回だったが、その内に夕食を御馳走(ごちそう)になるようになって家族に溶け込んでいった。朱里も次第に打ち解け、勉強の合間に学校や友だちの事などいろいろと話すようになった。 「先生の田舎は、岡山なんでしょ!岡山城とか倉敷とか、行ってみたいな」 「調べたな?大学生になったら、連れて行って上げるよ」というリップサービスを、彼女は無邪気に喜んでいた。まだ何も知らない純情な少女を、からかった自分が(いと)わしかった。  一学期の成績は思っていた以上で親には感謝され、彼女からは信頼を得ていた。先生と生徒という立場はわきまえていたが、長い髪の毛からふと香ってくるシャンプーの匂いや、眉根にしわを寄せて考え込んでいる顔、ショートパンツから伸びるほっそりと長い脚などに時折ドキッとさせられた。彼女をどうこうしようという気はさらさらなかったが、一度女を知ってしまった男が三ヵ月に及ぶ禁欲に堪えられるはずもなかった。友だちを誘って風俗に行った事もあったが、満足できずに虚しさだけが残った。
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