(5)二人目の彼女

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(5)二人目の彼女

 春休みに朱里の合格を祝して、光岡家に招待されホテルで会食をした。ご両親は上機嫌で、 「霜川君が、好青年で良かった。同じ大学だし、これからもよろしく頼むよ」と言う、父親の含みのある言葉に続いて、母親もまた意味深な発言をしていた。 「朱里から聞いたけど、浩市さんは彼女がいないんでしょ!朱里もずっと女子校だったから、男の子と付き合いがないのよ。まだ子どもだから、いろいろと教えて上げてね」 その言葉をどう解釈したら良いのか戸惑う俺に対し、朱里はうつむいたまま笑みを浮かべていた。  食事が終わってご両親と別れ、俺と朱里は二人で夜の街を歩いた。途中、小さな公園に立ち寄ってベンチに腰を掛け、先ほどのご両親の言葉が引っ掛かっていた俺は意味を問い質した。 「よろしく頼むという話ですか?あれは多分、わたしの気持ちを察して、援護射撃をしたんだと思います。わたし、小さい頃から内気で、自分の思いとか考えを伝えるのが苦手だから」  つまり、朱里は俺の事が好きだと言えなくて、それを両親が代弁したのだと理解した。 「ねえ、朱里ちゃん、俺のことが好きなんだよね。俺も好きだよ!親も公認みたいだし、付き合おうか」と持ち掛けると、彼女はいきなり俺の(ふところ)にとび込んできて顔を胸に(うず)めた。抱き着かれたのは二度目で、あの時と同じ甘いシャンプーの匂いが俺の嗅覚を通して全感覚を刺激した。 「わたし、男の人と付き合ったことないから、どうして良いか分からない。教えてください」と顔を埋めたままで表情は読み取れなかったが、思いの丈を精いっぱい語っているのが伝わってきた。俺は彼女を両手で抱き締め、長く(つや)やかな髪を撫でながら、ベストな答えを模索していた。 「恋愛にマニュアルはないんだよ。頭で考えるより、心のままに行動すれば良いんじゃないかな。それを受け止めてくれるのが恋人で、お互いの心が通じ合う喜びがあると思うよ。朱里ちゃんは、どうしたいの?」 「ずっと、こうしていたいです!先生の身体、とっても温かくて落ち着くから」 「それだけでいいの?お互いの気持ちを確かめるためには、一歩ずつ先へ進まなければ」  マニュアルがないと言っておきながら、俺は矛盾した事を述べていた。 「恋愛の第一段階として、キスしてみようか?顔を上げて、目を閉じてごらん!」と言いつつ、彼女のあごを引いて顔を近付けた。彼女は震えて歯がガチガチとなる音が聞こえてきたが、拒絶する様子はなかった。そっと唇を重ねると、彼女の震えは少しずつ収まっていき、俺のキスに精いっぱい応えていた。 「初めてのキスは、どうだった?」と訊いても答えず、彼女は下を向いたままだった。 「ごめん、野暮なこと訊いて。じゃあ、感想をレポートで提出すること」  その場を和ませようと冗談を言ったつもりが、彼女に上目遣いでにらまれた。その顔が可愛らしく、衝動に駆られた俺は二度目のキスで欲望を満たした。  大学は4月を迎え、恋人となった朱里との花の大学生活がスタートした。ほぼ毎日のように昼休みは学食で一緒に昼食を()り、授業後は待ち合せて一緒に過ごした。俺の部屋にも頻繁に来るようになり、そこではキスの復習に余念はなかった。ただ、彼女を大切に思うあまり、キス以上の関係には()えて進まなかった。  一ヵ月経った頃には、彼女のキスが上達したのは言うまでもないが、自分から積極的に求めて来るようになっていた。内気で消極的な少女は、恋を知って大人の女性へと成長していた。それとともに俺の鬱憤(うっぷん)も溜りにたまり、次の段階に彼女を誘い込んだ。長いキスを中断し、 「キスに関しては、合格点だよ!次の段階に進もうか、どう?」 「そんな合格点だなんて、恥ずかしい!浩市さんが、教えるのが上手いから。次の段階って?」 「えーと、おっぱいに触っていい?」と唐突に告げると、彼女は真っ赤になって返事に困っていた。そっと胸に手を置くと一瞬身をよじったが、抵抗する素振りがないのを見ておっぱいを手の中に包み込んだ。 「くすぐったい!わたし、人に触られるの初めてで、何か変な気持ち。わたしの小さいから恥ずかしい」  確かに汐梨と比べると小さかったが、着やせするタイプのようで思っていたよりも大きかった。ニットの下の膨らみは(てのひら)にちょうど収まるくらいで、柔らかさだけでなく弾力が感じられた。しかし、まだ汐梨が亡霊のように存在し、たとえ心の中であっても比べてしまうのは朱里に対して礼を欠く態度だと反省した。
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