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(6)一度だけの関係
告白し付き合い始めてから四ヵ月が経ち、明日から夏休みという日に俺たちは一線を越えた。
その日は暑く、部屋に来た朱里はTシャツを汗に濡らし、ミニスカートから伸びる素足が刺激的だった。シャワーを浴びたいと言い出し、初めて俺の部屋の浴室を使った。俺の大き目のTシャツに着替えて出て来た彼女は、いつもの朱里ではなく妖艶なオーラを発していた。いつものように慣れたキスをし、もうこの頃には胸を揉むのも当たり前になっていて、Tシャツの上から手を置くとノーブラだった。まさかと思って確認すると、下も何も着けていなかった。
「わたし、今日はそのつもりで来たの!」と彼女がつぶやいた声に、俺は耳を疑った。
「いいの?まだ胸までだから、一段階飛ばして卒業するってこと?」
「もう一段階って、なに?あそこに触ったりすること?いいの!覚悟をしてきたから」
「無理しなくても、いいんだよ!朱里のことは大切にしたいし、ゆっくりで構わないよ」
「無理してるのは、浩市さんの方でしょ!いつも我慢してるの、分かってるよ。だから、抱いて!」
彼女の口から抱いてという言葉が出てくるとは思わず、揺るぎない気持ちが察せられた。そこまで言われて引く訳もなく、彼女をベッドに導いて裸にした。まだ幼さの残る身体を五感で確かめ、まだ手つかずの女性器に進攻すると、彼女は震えながらも協力的だった。
「最初は痛いと思うけど、辛抱できる?身体の力を抜いて、俺に任せて!」と声を掛けながら、事を進めた。彼女は「痛い!」と言って一瞬逃げようとしたが、もう一度身構えてからは素直に俺を迎え入れた。眉間にしわを寄せた顔は受験勉強の時に見せたそれと同じで、その時以上にそそられた。
すべてを成し終わった俺は「やった」という満足感と、彼女にとって初めての男だという優越感に浸っていた。何も知らない生娘を破瓜した罪悪感もあったが、いずれは経験する通過儀礼のようなものだと自分に言い聞かせていた。一方の彼女は痛いのか悲しいのか、それとも嬉しいのか分からなかったが、涙が止まらないようで、俺の胸の中ですすり泣きが止む気配はなかった。
それから三日後に、朱里からメールが届いた。
『お元気ですか?今、ニュージーランドのホームステイ先から、メールして
います。
あの日からもう3日も経ったなんて、昨日の事のように思い出されて身体
が火照って眠れません。
短期留学の1ヵ月間が、とても長く感じられます。
空港に見送りに来てくれた貴方に、両親もその場にいたので、どんな顔を
したら良いのか分からず
素気ない態度でごめんなさい。本当は抱き締めて、お別れのキスをして欲
しかった。
帰国したら、その時はいっぱい甘えさせてください。
PS:先生が私に課したレポート、覚えていますか?
恋愛の段階ごとの感想を時系列でまとめましたが、恥ずかしい事をいっ
ぱい書いてしまい、とても提出できる代物ではありません。不合格でかま
いませんので、卒業できるまで私の先生でいてください。愛しい私の先
生、今後もいろいろと教えてくださいね!』
朱里からの熱い気持ちのこもったメッセージに、たとえ一ヵ月でも会えない寂しさを込めたメールを返信した。また、俺の冗談を真に受けて書いたらしいレポートを、ぜひ提出するように求めた。
初めてのセックスの後、彼女は泣きながら、
「明日から会えなくなると思ったらやり切れなくて、その前に浩市さんと結ばれたかったの。でも、今の方がもっと辛い!明日も明後日も、ずっと一緒にいたい」と言っていた。男冥利に尽きる思いだが、処女はあとが面倒だと聞いた事があり、彼女も例外ではなかった。
それから毎日のように他愛のないメールのやり取りをしていたが、1週間が過ぎた頃から二日おき、三日おきとなり、こちらから出した返事も遅れ気味だった。何となく嫌な予感が過って探りを入れると、留学先の交流パーティーで友人ができたという話だった。さらに追及するとそれは男友だちで、一緒に遊び回っている事が分かった。俺はショックを受けて彼女を叱責すると、しばらくメールが途絶えた。
そして、留学期間修了間近に送られてきたメールには、閉口した。
『このところ忙しくて、メールの返事もろくにせずにごめんなさい。あと少しで留学も終わり帰国す
るつもりでしたが、友人にも引き留められ、折角なので夏休みが終わるまでこちらに滞在する事に
しました。それと、日本に帰っても、浩市さんに合わせる顔がありません。ごめんなさい。
PS:貴方には謝らなければならない事が、二つあります。
隠し事は嫌いなので、正直に打ち明けます。
一つ目は、こちらでできた友人の事です。貴方には怒られましたが、思っている通りでただの男友だちではありません。詳しい事は割愛しますが、貴方が教えてくれたように、頭で考えるより心のままに行動した結果です。こちらに来てからの寂しさを紛らしてくれたのが彼で、そこに開放的な雰囲気も加わり、恋愛にマニュアルはないという貴方の言葉を信じて実践します。
二つ目は、今になってはどうでも良い事ですが、私たちは親が決めた許嫁だったという事です。
家庭教師も私たちを引き合わせる口実で、私に男性への免疫がないのを知っての事でした。その時は、女子ではなくなぜ男子学生なのかという反感もあり、貴方には辛く当たりました。それでも、徐々に好感を抱くようになり、半年後には恋心に変わっていました。そして一年後には恋人になり、貴方に抱かれました。既成事実ができてから打ち明けるのは卑怯だと思います
が、私も最近になって聞かされて貴方に言い出せずにいました。
以上ですが、決して浩市さんが嫌いになった訳ではなく、こちらの彼により心をひかれたという事です。今まで、いろいろと教えてくれて感謝しています。課題は未提出ですが、実践段階に入れたので卒業させてください。自分勝手でわがままな私を、許してください。さようなら』
許嫁の件には驚かされたが、それ以上に朱里の挙動に納得がいかなかった。あんなに好きのオーラをぶつけて来ていたのに、あっけなく別れを告げられた。これからじっくりと開発していこうと楽しみにしていたのに、一回だけのセックスで見限られるとは情けない思いだった。
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