(1)初体験まで

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(1)初体験まで

3月20日 初めて先生とキスをした。緊張のあまりに心臓が口から跳び出しそうで、その時のキスはよく覚えていない。目を閉じてと言われたが、言われなくとも開けられる訳がなかった。その後で感想を聞かれ、余裕しゃくしゃくの先生が憎らしかった。 二度目のキスをされた時、口と口が繋がっていると実感できた。キスの味はよく分からなかったけど、先生のいう第一段階をクリアして、恋人同士になれたと実感できた。それと、大人になったような気がした。朱里と呼ばれて、とてもうれしかった。私も、先生ではなく浩市さんと呼ぶ事にした。 4月28日  浩市さんとは一ヵ月の間に数え切れないほどキスをし合い、いろんなキスを教えられた。初めて口の中に舌が入って来た時には気持ち悪かったけど、今は自分から進んで舌を絡めるようになった。長い時間を掛けたキスは、吸ったり吸われたりしている内に、意識が遠退いていく感覚を味わった。  第二段階は何をするのか、大体は分かっているが、好奇心と不安が付きまとう。浩市さんの手は背中から動こうとせず、もう進んでも良い頃なのにもどかしい。  5月8日  やっと第二段階に入り、おっぱいに触られた。私の胸は引け目を感じるほど小さく、浩市さんを満足させられるのか不安だった。また、女の子同士でふざけて触り合った事はあったが、男の人に触られるのは初めてで気が気でなかった。触っても良いかと訊かれ、良いとも悪いとも言えず、どう答えて良いのか分からなくて黙ってしまった。稚拙な私には、こういう時にそういう事を訊くものかどうかも不案内だった。  キスをしながら大きな手でおっぱいを包まれ、決して嫌ではなかったが、とにかくこそばゆくてキスどころではなかった。気持ちが良いとか感じるとか、友だちから聞いていたが、本当なのか疑わしかった。  5月25日  おっぱいに触られるのも大分慣れた、というかいじられるのは満更ではなかった。最初はくすぐったいばかりだったのに、いつの間にか感じるようになっていた。浩市さんの手は服の上から下へ、ブラジャーの上から下へ進み、今日はとうとう直に触れられた。しかも、乳首をいじられて、お腹の下の方がキュンとなった。初めての経験だった。でも、まだ見られるのは恥ずかしい。  おっぱいを揉まれている時、太腿の辺りに違和感を覚えて見ると、浩市さんの股間が妙に膨らんでいるのに気付いた。聞きかじりの知識によると、これが勃起というものらしかった。他にも触る所はあるのに、おっぱいだけで我慢しているのは、私のためなのかもしれない。先へ進むのは怖いには違いないが、ここまで来たら何をされても同じだと思う。  7月15日  この日、浩市さんと一つになるために、つまり処女を卒業するために家を出た。明日から短期留学でカナダに行く事が決まっていて、その前にロストバージンを済ませておきたかった。そうしなければ、一カ月も離ればなれになるのが不安で、私の身体に浩市さんの身体を刻み付けたかった。  私の覚悟を告げると、浩市さんは私を裸にしてベッドへ導いた。男の人の前で全裸をさらすのが面映(おもは)ゆく、どこをどう隠して良いのか気まずかった。そんな私の気持ちをないがしろに、浩市さんは私の身体を隅々まで目で見てから、手でなで回したり口や舌でねぶったりして容赦はなかった。今まで自分でも触れた事がなかった場所に指が進んで来た時、思わず身を堅くして手を押し退けた。それでも有無を言わさずに押し開かれ、もう後戻りはできないと覚悟を決めた。  いよいよ挿入となり、どんな形状でどのくらいの大きさのものが入って来るのかを知りたかったが、そんな余裕はとてもなかった。初めて異物を受け入れる緊張と未知の恐怖に身をすくませ、されるがまま身構えていた。入って来た瞬間、その痛さに耐えられず無意識に腰を引いていたが、ここで臆病になっては元も子もないと思い直して必死で耐えた。それは今までに経験した事のない痛さで、転んで膝をすりむいた時とも歯医者で親知らずを抜かれた時とも違う感じで、お腹はいっぱいで苦しささえ覚えた。  ひと通りの儀式が終わると、私はなぜか涙が止まらなかった。それは好きな人と結ばれた喜びではなく、両親への心苦しさでもなく、ましてや耐えられない痛みに対してでもなく、自分でも理解できなかった。
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