(1)初恋の人と再会

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(1)初恋の人と再会

 汐梨は親友の霧山花恋と一緒に、晴れ着を着て市の主催する成人式に出席した。 「花恋、元気だった?名古屋での一人生活、どう?」 「一人じゃないよ、同棲してるから。汐梨は彼氏できたの?」  久し振りに会った二人はお互いの近況を語り合い、退屈な式典はそっちのけで恋バナに花を咲かせた。式典後は中学校の同級会が予定されており、汐梨は着替えのために花恋と別れて帰ろうとしていた。 「雨宮さんだよね!僕のこと、覚えてる?」 声を掛けて来たのは、汐梨の初恋の相手である(ほり)陽之介(ようのすけ)だった。 「あっ、堀君?すぐ分かったよ!全然、変わってないから」 「雨宮さんは、女らしくなってて見違えたよ!中学卒業以来だから、5年振りかな」 「堀君も同級会に出るでしょ!その時にゆっくり話せるといいね」 「いや、僕はそういうの苦手で、欠席するつもりだから、また今度ね」  汐梨は、相変わらずクールな彼に胸が高鳴り、今度という言葉を信じて連絡先を交換して別れた。  同級会の席で、花恋にその事を告げると、 「脈ありだな!汐梨も今は空き家みたいだし、行くべきだよ」と高校時代と同じようにけしかけられた。  汐梨が堀と連絡を取って会ったのは、入試で大学が休校の日だった。堀は都内の大学に進学して下宿しており、汐梨は小田急線で新宿に向かった。二人は西口ロータリーで再会し、高層ビルの一角にあるカフェに入って話をした。中学の思い出話や同級生の噂話がひと通り済み、大学生活に話が移った。 「堀君は高校の時から下宿して、一人暮らしなんでしょ。すごいな、寂しくないの?」 「うん、もう慣れたから。それに、勉強に集中できて良いよ!」 「ふーん、ご飯とかどうしてるの?自分で作るの?」 「いや、まかない付きの下宿だから、朝晩の食事は心配ないんだ」 「なんだ、そうか。わたしが作りに行ってやろうかと思ったけど、余計なお世話だね」  汐梨は冗談のつもりで言ったが、堀は真に受けて、 「男子の部屋に、簡単に行ったりしたらだめだよ!」と汐梨を諭した。汐梨は気まずくなって、 「堀君は真面目だな。中学の時と変わらないね!それに比べてわたしは…」と言い(よど)んだ。 「雨宮さんも、あの頃と変わらないよ。姿かたちは大人っぽくなったけど…」  汐梨はそれを聞いて後ろめたい思いと同時に、この人は検事になると言っていたが、人を見る目がないのではないかと疑問に思った。その後はうつむいたまま会話が途絶え、カフェを出て西口公園を散歩した。 公園には仲睦まじいカップルが多く点在し、二人は場違いな場所をチョイスした事を悔やんだ。 「堀君は、彼女いるんでしょ!頭が良いし、モテるんだろうな」 「頭が良いのと、それは関係ないよ!高校は男子校だったし、女子と付き合った事はないよ」  汐梨はどこかで聞いた科白(せりふ)だと思い、ひとり顔を赤らめた。いつかこの人とキスしたり抱き合ったりする事があるのだろうかと、不遜(ふそん)な妄想を巡らしたがすぐに打ち消した。 「雨宮さんこそ、恋人はいるの?」と訊かれ、汐梨はノーと答えた。 そして、二人はまた会う約束を交わして別れた。
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