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§2 結婚生活
結婚して3年が経ったが、わたしの身体に変化はなかった。月一回の子作りのための性行為は功を成さず、わたしの性的欲求不満が増すばかりであった。
「ねえ、わたしのこと愛してる?あなたは、したくないの?」
ある日、耐えかねたわたしが彼に迫ると、
「そんなにしたいのか?欲望を制御するから人間であって、子孫を残すための性行為を淫らに扱ってはいけない!分かるだろ?だから、ぼくは月一回のセックスで充分なんだよ」とたしなめられた。彼は検察官として性暴力やそれに関連した事件を担当する事があり、性的な事を汚らわしいと思っているようだった。
お正月に実家に帰り、親友の霧山花恋に久し振りに会った。花恋は名古屋の保健衛生大学を卒業し、母親と同じ養護教員として高校に勤めていた。
「汐梨、元気だった?堀君との結婚生活は、うまくやってる?」
「うん、まあまあ。それより花恋、お腹が大きいんじゃないの?」
わたしは会ってすぐにそれと分かり追及すると、相手は妻子持ちの同僚だという。高校時代から性に奔放だった彼女だが、まさか不倫の末の妊娠とは驚いた。酒に酔った勢いでの事と言っており、また、授かった生命を無下にはできずシングルマザーになると言っていた。
「ところで、花恋はどうなの?子作りに励んでいるんでしょ!」
「それが、どうもうまくないんだ!花恋だから話すけど、笑わないで聞いてくれる?」
わたしは、内に秘めた女としての情念を語った。月一回のセックスでは満足できない事、求めると邪険にされる事など、性の不一致を感じていると正直に打ち明けた。
「汐梨も女になったんだね!それは堀君が傲慢だよ。女が性的な欲望を持つことを否定して、女性蔑視の検事とはあきれるね。浮気しちゃえば?」と花恋に言われ、何か背中を押されたような気分だった。
検察官の仕事は転任が多いと聞いていたが、4年で静岡から長野に引っ越した。そうした事情でわたしが正職に就く事はできず、静岡での3年間の生活は退屈だった。
引っ越しの荷物の整理に追われる中、長野の市役所に転入届を出しに行った。窓口で対応に当たっている大柄な男性を一目見て、高校時代に交際していた氷室雷太だと分かった。というよりもわたしの初体験の相手であり、体裁が悪く踵を返そうとすると声を掛けられた。
「シオリンだよね!どうして?長野に引っ越して来たの?」
「ああ、氷室君?わたしだって、よく分かったね。市役所にいるんだ」
「そりゃあ、分かるよ!でも、女っぽくなっていたから、どうかと思って声を掛けてみた」
雷太は地元長野の大学でラグビーを続けた後、市役所に採用されたと言っていた。それから、わたしの結婚相手の事や自分は未婚である事など、これまでの素性を短時間で語り合った。帰り際には、
「今度、ゆっくり話をしようよ」と言い寄られ、連絡先を交換した。
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