(4)無分別な行為

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(4)無分別な行為

 合宿が終わったその日、汐梨は親に合宿の日程が延びたと嘘をつき、小日向の家に付いて行った。小日向は静岡から上京して西八王子のワンルームに住んでおり、関係が急速に進展した汐梨を家に誘った。  部屋に入るや否や、会話する間もなく、汐梨はベッドに押し倒された。小日向は体重が掛からないように意識して汐梨の上になり、唇そして首筋へのキスを念入りにしていった。汐梨はそれを何の抵抗もなく受け入れ、以前から何度もそうされていたように応じた。そして、両手をバンザイの形にされてトレーナーを脱がされた時には、既にブラジャーは外されていて乳房がさらけ出た。汐梨が必死に手で隠そうとするのを阻止し、小日向は慣れた手つきで胸への愛撫を開始した。両手でおっぱい全体を下から押し上げ、親指で左の乳首を転がしながら右胸の乳首を口に含んだ。汐梨は無我無心の境地に到り、小日向の頭を()きむしりながら(みだ)らな声を発していた。頭の中は混乱し何も考えられず、浩市と(むつ)み合っている時の感覚を思い出し、その瞬間に昇りつめていた。  汐梨がようやく正気に戻った時には、小日向と一つになっていた。粘膜と粘膜がすき間なく絡み合い、それは子宮の入口まで届いていた。浩市とのセックスでは感じ得なかった性的快感に満たされ、汐梨は二度目のオルガスムスを迎えた。  汐梨がまどろみの中から目を覚ますと、小日向はソファーで涼しい顔をしてくつろいでいた。 「お姫さま、お目覚めですか?雨宮さん、すごく感度が良いからびっくりしたよ!」 「やだ、恥ずかしい!」と汐梨は真っ赤になって、タオルケットの中に身を潜めた。 「こんなに素晴らしい身体を手放すなんて、元カレは分かってないな。シャワーを浴びておいで」  汐梨はどう言葉を返して良いのか分からず、黙ってバスルームに向かった。すると、小日向が 「使い方、分かるよね!バスタオルは、ここに置いておくね」と言って裸で入って来た。そのまま促されて中に入ると抱き締められ、その後はお互いの身体を洗い合った。小日向の手が汐梨の胸や尻、股間にまで及んだ時には、立っていられずにうずくまってしまった。その場で見上げると、小日向の物が目の前にあり、汐梨は思わず口に含んでいた。舌を絡ませたり首を動かしたり、喉の奥までくわえ込むと、それは大きな魔物に成長していった。汐梨はそのまま射精するものだと思ったが、小日向の場合はそうではなかった。 「俺さ、早漏の逆なんだ!中々いかなくてさ」と言われ、そういえば最前のベッドでも、随分長時間に及ぶセックスだったと汐梨は納得した。 「もう一度入れてもいい?」と()われ、汐梨に拒む理由はなかった。  バスタブに手をついて身体を支え、後ろから入れてくる小日向を迎えた。自分のいやらしい姿が頭に浮かび恥ずかしかったが、身の置き所のない快感がそれよりも勝っていた。()かれて何度も膝まずきそうになるのを抱えられ、いつ果てるとも知れぬ行為に身を任せていた。腰の辺りに温かい物を感じた時、 「外に出したから、心配しないで!お疲れさま。先に出てるね」と何事もなかったかのような態度で出て行く小日向に、汐梨は虚しさを覚えていた。足腰に力が入らず、やっとの事で洗面台に行って鏡に自分を映し、目の下の隈と首筋や胸の辺りの赤い(あざ)に気付き、激しいセックスの爪あとを改めて実感した。そして、洗面台に置かれた2本の歯ブラシが目に入り、白けた気分でバスルームを後にした。  脱ぎ散らかした衣服をまとい、汐梨は小日向の前で居ずまいを正し、 「小日向先輩、彼女がいるんでしょ!どんな人ですか?」と問い(ただ)した。小日向は目を泳がせながら、 「えーと、それは、どうして?」と落ち着きを失っていた。 「大丈夫ですよ!わたしは先輩の恋人になろうとか、彼女から奪おうとか思っていませんから。洗面所や台所に彼女の姿があるし、もっと言えばベッドにも。女の感を侮ると、馬鹿を見ますよ」 「ごめん、その通りだ。静岡に付き合ってる彼女がいて、時々ここにも来るんだ」 「やっぱり、白状しましたね!つまり、わたしとは浮気ということなら、彼女にばれないようにしてください。一夜の過ちということで、二人だけの秘密にしましょ!二度とここに来る事はないと思います」  汐梨はそう言い捨て、自責の念と虚無感に胸を押しつぶされそうになりながら帰路に着いた。  汐梨が次にここを訪れたのは、半年後のゼミの送別会の日だった。
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