1.星は出会い、運命の輪は回りだす

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 この二十五年間で起きた異常現象の歴史をこうして思い返しているのも訳がある。  ブラック企業に勤めてしまったがばっかりに、俺がへとへとで帰宅した時だった。言うなれば今である。現在進行形の話だ。~ingで表現できるのだが、難しいのでやめておこう。  時計の針もそろそろ日付変更線を跨ぎそうな時間帯。都会の闇色空には満点の星空……とは言い難いが、パワハラに合わされている俺を星が慰めるように煌めいている。もちろん、北斗七星はどこにもいない。  ほぼ寝るためだけの空間と化してしまっているアパート。  ようやくそこに戻れたと脱力しそうになっていれば、()()()()()が落ちていて大切な住居を破壊していた。  色々な意味で力が抜けそうである。──失礼、正確に言えば腰が抜けそうである。  「一体お前は何を言っているんだ」と誰もが俺の発言にツッコみたいだろう。  だが安心してほしい。一番ツッコみたいのは俺自身だ。あまりにもリアリティに欠けていて、自分でもおかしなことを吐いているという自覚はある。  だが悲しいことに、紛れもない事実なのだ。  巨大目玉が目の前で落ちている。目玉だけに。……余計な事を言ったな、うん。今のは忘れてくれ。  しかしこんなことが目の前で繰り広げられていれば、この二十五年間地球に起きた異常現象を思い返すのも無理ないだろう。人はこれを走馬灯と言うのかもしれない。 「ええ……」  あまりの衝撃的で非現実的な光景に、気絶しそうになるのを丹田に力を入れて堪えながら、改めて無残になってしまったアパートを見やる。  まるで巨大隕石が落ちてきたようだった。しかし何度も言うが相手は石ではなく目玉。目玉もここまで巨大だと建築物も容易に壊せるのだな、とてんで見当違いな感想を抱いていた。  アパートはものの見事に木っ端微塵。低収入でも住めるようなボロアパートではあったが、そんなこともわからないくらいにその面影は見事に破壊されている。  あまりの衝撃だったのか、それとも埃や塵が舞っているのか、はたまたガスが引火されているのか。わからないが細い煙が何本か上がっている。  他の住人は大丈夫なのだろうか。多くの心配が脳裏を過る。確か隣には、俺と同じようなヨレヨレのおじさんが暮らしていたはずだ。……いや、ここまで見事に崩壊されてしまったら無事ではないだろう。  ここまでド派手にやられてしまうと、一般人は何もできない。通報した方がいいのだろうか、警察と消防と救急車と……と混乱している頭で段取りしながら鞄からスマホを取り出して番号を打ち込む。だがその指は中途半端な所で止まった。  ──言葉だけでこの状況を説明したところで相手は理解してくれるだろうか?  ……答えは否である。少なくとも俺がオペレーターだったら訳がわからないし、絶対に信じない。悪戯電話と判断して切ってしまうだろう。  これから行おうとしていたことはとても無意味だと思い知らされた途端、スマホを持っている手がブランと垂れ下がった。
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