1.星は出会い、運命の輪は回りだす

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 俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。この信じ難い現実に為す術がないことをまざまざと思い知らされて、虚無にも等しい感情が湧いてくる。  何もできないのなら、と俺は改めてこの巨大な球体を観察してみることにした。……いや、むしろ「目が離せない」の方が正しいだろう。ついでに付け加えると先程から口が塞がっていない。現実味が無さすぎて、情けない姿で突っ立っているのだ。通行人の邪魔と言えば邪魔だが、そもそも時間帯的に通行人はほとんどいないので問題ない。  ただ呆然と立ち尽くして観察をしているだけでも、見えてくることはいくらでもあった。それはとても特徴的な目玉だった。……まあ、巨大な時点で特徴的の塊であることには変わりないのだが。  この巨大な目玉は異様に輝いていた。恐らく金色に輝いている瞳がそうさせているのだろう。一体何の目玉なのだろうか。超巨大な目玉おやじか、アトラスなどと言った巨大な神の目玉だろうか。  そして瞳孔は細くて縦長。まるで獣と言うより爬虫類の目のようだった。明らかに人間のそれではないので、人型の妖怪や神は候補から外れる。まあ、こんな巨大な人間がいても困るので、ある意味爬虫類系のそれでよかったと思わなくもないのだが……。  本当に観察以外為す術がなく、俺は目を丸くしながらぼんやりと眺め続けていた。微動だにしない俺に、真夜中の冬の空気が襲い掛かってくる。塞がらない口から延々と白い息が吐き出されていた。  ──突如、巨大な目玉がギョロっとこちらを見た気がした。  え? 今目が合った? ……なんて考える余地なんて一秒もなく。心臓がドクンと一回だけ力強く脈打ったかと思えば、寿命を縮めようとしているかのように脈が速くなる。そして同時に呼吸が速くなるというより荒れていくのだ。ハッハッハ、と口から二酸化炭素が小刻みに吐き出されているのが冬の空気のせいで嫌でも視界に入ってしまう。  これが所謂動悸というものだろうか。だとしたらあまりにも衝撃が強すぎる。まるで全身がドクンドクンと激しく脈打っているようだった。不快を通り越して全身が痛い。  俺はとりあえず落ち着こうと、一回瞼を気合と根性で閉じて深呼吸をした。冷たい空気が肺一杯に埋まる。  視界を遮ったことでそれ以外の感覚が研ぎ澄まされる。冷たい静寂が耳を包み、顔を冷やしていた冬の空気がより一層突き刺さってきた。凍えるような澄んだ空気が嗅覚を擽る。  どこかノスタルジックを感じさせる冬独特の冷ややかな空気を感じ取ったことで心臓がトクントクン……と落ち着く。あれほど乱れていた呼吸も落ち着いてきたので俺は瞼をゆっくりと上げた。  視界が開けると、目玉はよくわからないオーラを纏っていた。先程まで一切見えていなかった黄金色に輝く光のオーラを纏っている。一体どういうことだ。原理も何もかもわからない。  理屈の一切わからない黄金色のオーラに圧倒されていると、俺自身がそのオーラに引き込まれそうになる。まるでそのオーラが引力の源みたいだった。ブラックホールと呼ぶには煌びやかすぎる。  訳がわからない。もうその言葉しか俺の脳内には残っていなかった。あからさまに眉間にシワが寄っているのが嫌でもわかる。訝しむのも無理もない。それでも俺は異常なまでに引き付けられていた。足が身勝手にも目玉を目指しているのだ。  自分の意思とは反対に、俺の手は身勝手にも目玉に向けて伸ばしていた。まるで魂がそのあまりにも大きすぎる球体に触れたいと叫んでいるようだった。  あとちょっと、つま先を上げて腕をしっかり伸ばせば指先がそれに触れそうだった。二センチ、一センチと距離が縮まるごとに魂が歓喜の色で染まっていく。
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