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*プロローグ
「じゃあな、潤。今日からお前はここで暮らすんだよ」
見知らぬ家の前に着いた途端、それまで手を牽いてくれていた人はそう言って俺の手を放した。
待って! と、言いたいのに、置いて行かれた事実を受け止めきれない俺は、去っていく背中をただぼう然と見送るしかできなかった。
――なぜなら、まだこの当時の俺はたった三歳になるかどうかという頃だった。自分の名前と歳をかろうじて答えられても、親の名前や住所なんてとても言えなかったであろうに。
桜吹雪の向こうに背中が消えてしまって、ようやく俺はその名を呼ぶことができたけれど――もう、その人に届くことはなかった。
「――おとうさん!」
あれきりで本当にもう会えなくなるなんて、どうしてあの頃の俺にわかっただろうか。
最後だとわかっていたら、もっとたくさん名前を呼んでもらいたかった。
最後だと知っていたら、もっとたくさん抱きしめて欲しかった。
――でも、もうどれも叶わない。
だから、俺はあの子の――晴喜の手を取ったんだろう……いまになって、そう思えるのかもしれないけれど。
これは、親に捨てられた子どもだった俺・遠藤潤が、同じく親に捨てられた迷子の飯塚晴喜と巡り会って、彼を通して夢を叶えていって、それから――の、物語だ。
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