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「まあ、なんて可愛らしい女の子なんでしょう」
「この子は世界一の美女だよ。こんなに美しい子は見たことがない」
これは麻友子が産まれたときの、パパとママの会話だ。
なかなか子宝に恵まれず、やっと授かった一粒種が菱沼麻友子であった。
そのため両親は麻友子が目に入れても痛くない、愛おしい存在だった。
口を開けば、可愛い、いい子、すごい、美人さん、天才、と愛情(?)いっぱいの言葉をかけまっくていた。
麻友子3歳の時。
「ママぁ。麻友子ねぇ、チョコレートってお菓子を食べてみたいの。テレビで美味しいって言っていたのよ。あれ、食べたいわ」
すくすくと素直に成長した、可愛さ全開の麻友子がママにおねだりをする。
ママは少し困り顔で麻友子に言った。
「まあ、麻友子ちゃん。チョコレートは歯に悪いから、食べない方が健康でいられるわ」
「えーーっ、麻友子、食べたい!
甘くとろけるチョコレート食べたい!
食べたーーーいのっ」
そう言って麻友子は地団太を踏む。
そこへパパが口を挟んだ。
「ママ、麻友子ももう3歳だ。世間で流行っているものに興味があるんだよ。情操教育として食べさせてみてもいいんじゃないか」
「そうね、何事も経験は必要ね。じゃあ、食べてみましょうか」
「わーい、やったあ」
小さく可憐な麻友子は、両足揃えて飛び跳ね喜んだ。
その可愛らしい姿をみて、両親は目を細めた。
若干3歳にして、麻友子は世界の有名パティシエの上級チョコレートの味を覚えていった。
麻友子は6歳になった。
「ママ、パパ。私、フカヒレってお魚を食べてみたいわ。恐ろしいサメのヒレなんだけど、世界一美味しいそうよ」
幼稚園で色々な情報を見聞きするようになり、麻友子は欲望のまま両親にリクエストしていた。
「麻友子ちゃんったら、フカヒレがサメのヒレからできていることを知っているなんて、本当に賢い子ね!」
ママはそう言って麻友子の頭を撫でる。
パパは弾むような表情で麻友子にこう提案した。
「ようし、早速、珍華楼に予約をしよう!」
麻友子8歳。
「本場のカヌラをお腹いっぱい食べたい」
ママ
「マリーアントワネットが愛したお菓子も知ってるの!麻友子ちゃんはマリーの生まれ変わりなんだわ!」
パパ
「ようし、早速、フランスに直行だ!」
このように両親は麻友子の可愛さあまり、愛が歪んでしまった。
麻友子から要求されたものを全て惜しみなく与えてしまうのであった。
美味しいものを欲しいだけ食べても、両親は幸せそうに麻友子をみつめていた。
だから、当然、
麻友子は太っていた。
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