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麻友子が9歳のときだった。
ある日、半べそをかきながら学校から帰ってきた。
「一体、どうしたの?!」
ママは心配して麻友子を抱きしめた。
麻友子は真一文字に結んだ口をゆっくりと開いた。
「私って、デブなの?」
「デブですって!? なんて下品な言葉!」
「クラスの男の子にそう言われたの。お腹のお肉をつままれながら」
「なんてこと!麻友子ちゃんは太ってなんかいませんよ!」
「本当に?」
「ええ、ちょっと待っていて」
ママは外国の雑誌を持ってきた。
そこには豊満なバストとお尻、キュッと引き締まったウエストの女性モデルがポーズをとっていた。
「麻友子ちゃんはこのモデルさんのように、とても女性らしい身体をしているのよ。女性本来の美しさは、ふくよかな体型なの。だから、気にしなくていいのよ」
麻友子も目を輝かせモデルに魅入る。
「本当だ、この人たち、すっごく女性らしいわ! 私もこうなるのね、自信がついたわ!ありがとう、ママ!」
麻友子は涙を拭き取りママに抱きついた。
「麻友子ちゃんが自信を取り戻してくれて、ママ、嬉しいわ」
ママは本気でそう思っていた。
そして、麻友子を思うあまり、両親は学校へクレームを入れるようになる。
菱沼麻友子の親はクレーマー、と陰でひそやかにささやかれるようになった。
そうして余計な雑音が麻友子の耳に届くことはなくなり、何も気にせず、どんどん太っていった。
同時に、
両親に全てを受け入れられ保護されてきた麻友子の自己肯定感も、激しく高くなっていった。
しかし、思春期になると親の目が届かないところで、麻友子は自分の現実を知ることになる。
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