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「君たちって隣の女子高だよね」
「そうよ。もしかして……私のこと、知ってる?」
麻友子が上目遣いで博幸を見る。
「いやいや、制服がそうだから」
当然のように博幸の真横ポジションに、ピタッとくっつく麻友子。
博幸はうっとり眺められるのに居心地の悪さを覚えながらも、頑張って校内を案内した。
そう、博幸は良識のある両親に育てられた好青年であった。
しかし周りは冷やかしの言葉をかける。
「マジかよー。ドラム缶じゃん」
通りすがる男子がケラケラ笑った。
麻友子は、ドラム缶なんてないけど?とキョロキョロ探した。
ひばりは言う。
「あの人、視えないものが視えるんじゃない。やっばーい」
「スゲー、博幸、デブ専なんだ」
博幸は顔を赤くした。
豊満な女性だと刷り込まれていた麻友子は、やはり自分の事とは気が付かない。
ひばりは言う。
「どこにデブがいるの。今の人も視えっちゃってる。この高校ヤバい~」
こちらも他人事だった。
羞恥心も限界だっ!
と、博幸の足がピタッととまった。
「博幸くん?どうしたの?」
麻友子は心配に覗き込む。
「悪いんだけど、ここまででいい?」
「変なこと言われても、私は全く気にしないわ。だから、もっと一緒に楽しみましょう」
麻友子は腕を絡ませたが、博幸は申し訳なさそうに解いた。
「正直に言うよ。
君と並んで歩くのが、恥ずかしいんだ」
「ああ、そうよね。私たちって、年齢の割に大人びた体つきだから、やっぱり気になっちゃう?」
「そうじゃなくて‥‥‥、
君、不健康(肥満)だもん」
「私は元気よ! もっと博幸くんと一緒にいたい、だからっ」
麻友子が再び博幸の腕を取ろうとしたとき、彼はすうっと1歩下がった。
「もっと健康な(痩せた)身体になったら並んで歩いてもいいよ。それじゃっ」
博幸はそう言ったと同時に、逃げるように校舎へと走っていった。
博幸は外見の特徴でからかうのは最低の行為と親から教わっていた。
だから、麻友子が傷つく言葉は一切使わなかった。
本当にいい人だった。
しかし、こうして麻友子の初恋は一瞬で終わってしまった。
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