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麻友子は夏休み中はダイエットに集中した。
そして、特別運動メニューと考え抜かれた食事メニューによって、麻友子は生まれ変わった。
新生・菱沼麻友子は姿鏡の前に立つ。
豊満な胸とお尻はそのままに、ウエストはきゅっとしまり、全体的にほっそりとした。
栄養バランスが完璧な食事の成果で、肌や髪の毛は輝くばかりに艶めいていた。
「これが健康的な私の姿……。
ママ、私、やせすぎてないかしら?」
見慣れない自分に不安になって、麻友子はママに質問した。
「とっても美しい健康美だわ。完璧といっていいほどに」
そう言ってママは目を細める。
「健康を追求すると人はこんなに美しくなるものなのか。ああ、変な男に目を付けられないか、パパは心配だよ」
パパは軽く頭を振った。
「私はママとパパの子よ。芯はしっかりした麻友子は変わらない。安心して」
麻友子はにっこりと笑った。
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そして新学期となり、麻友子は学校へ登校する。
麻友子は密かにあることを決めていた。
健康になったらやりたかったこと、だ。
「おはよう、ひばりちゃん」
麻友子はひばりの肩を軽く叩き挨拶した。
振り返ったひばりは、麻友子を見るなり目をぱちくりさせた。
「どちらさま?」
「ひばりちゃんったら、夏休みの間で私を忘れるわけ? そんな冗談、通じないよ」
この声は、と、ひばりが思い出す。
「ま、麻友子おおおお???
べ、別人になってる!!」
ひばりが叫ぶと教室中の子が、別人になった麻友子の周りに集まって来た。
「本物の麻友子ちゃんなの?」
「あの肉はどこいったの?」
「1/3になってる!」
次から次へと皆が驚嘆の声を発する。
麻友子は自信満々に皆に言う。
「私、夏休みに頑張って減量したの。で、健康を取り戻すことができました!」
麻友子はダブルピースで喜んだ。
意外なことに、今まで近寄ってこなかったクラスの女子たちも麻友子におめでとうの声をかけてくれた。
そして、羨望のまなざしを向けた。
「どうやって綺麗になったの?
整形もしたの? 話を聞かせてよ」
と、あれよあれよと麻友子は連れさられてしまった。
次の休み時間。
麻友子は1人窓辺でフルーツミックスを飲んでいるひばりのもとへいった。
「ここにいたのね」
「……あ、麻友子」
ひばりは元気がなかった。
「ミクが引っ張りまわすから、こっそり抜けてきた。なんで急になれなれしくするんだろう」
迷惑そうに麻友子は首を傾げた。
「麻友子が美しくなったからよ。綺麗な子の横にいると、ミクのカーストも上がるからね」
「ひばりがそんなこというなんて、どうかした?」
「別に。で、何の用?」
「うん、実はね。
私、博幸くんに告白しようと思うの」
「文化祭で会った博幸くんのこと?」
「そう、私、健康になったから、一緒に並んで歩いてもらえるかなって」
麻友子は、てへへ、と恥じらう。
「うまくいくよ。頑張んなよ」
ひばりはそういうと、ふいっと窓の外に顔を向けてしまった。
浮かれている麻友子は気が付かない。
「ひばりに太鼓判もらえるなら大丈夫だよね。放課後、告白してくる。結果はまた、報告するからね」
「……聞かなくてもわかるよ……」
ひばりはぼっそと呟く。
「じゃ、行ってくる!
ひばりちゃん、応援していてね!」
「待ってっ」
ひばりが麻友子を引き留める。
「どうしたの?」
「…私たち、『友達』でいいんだよね?」
「あったりまえじゃんっ、何をいまさら! じゃ、行ってくるっ」
そういうと麻友子は、すらっとした足を翻し走って行った。
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