第一部 蝶よ花よの麻友子です

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男子校の校門の前で待つのには、かなりの勇気がいる。 だって麻友子は男性に良い印象がないからだ。 博幸が通るのを待っている間、下校する男子たちにジロジロ見られていた。 しかし、今までも奇異な目で見られることが常だったので変わりはない。 (博幸くんがきたら、頑張った自分を見てもらおう。そして……) 校舎の方から博幸が歩いてくる姿が目に入った。 (来た!) 麻友子は鞄を握る手に力が入る。 そして、校門で待つ麻友子の姿も博幸の目に入った。 麻友子も目を逸らさず博幸を見つめる。 そして、自ら博幸のもとへと駆け寄った。 艶めくロングヘアーを揺らしながら、スタイル抜群な美女が博幸の前に立った。 「博幸くんっ、待ってた」 「……」 博幸は何も言わずただ、麻友子をみて顔を紅潮させる。 「博幸くんのおかげで、私は健康を取り戻せたわ。すべて博幸くんのおかげよ。本当にありがとう」 そういって麻友子は丁寧に頭を下げた。 その瞬間、シャツの間から豊満な胸谷間が見えた。 それを確実に見た博幸の肩がビクッと反応した。 「博幸くんに伝えたいことがあってきたの。  私、博幸くんが好き。  付き合ってください」 麻友子はお辞儀をするように、手を差し出した。 そして再び、博幸の目に谷間が飛び込む。 しかし、博幸はのぼせることはなく、むしろ腰が引ける。 「君、誰?」 博幸くんは新生・麻友子に気が付かなかった。 「文化祭で誘ってくれた麻友子よ!」 「ぼくが記憶している子とは別人だよ!  し、失礼するっ!」 今にも吹き出しそうな鼻血を抑えて博幸は全速力で走っていった。 こんな美人に告白され嬉しくない男の子はいない。 彼は良識人の両親に教わっていたのだ。 不自然に近づく美女はハニートラップ、引っかかる前に逃げよ!と。 あっけにとられた麻友子はその場にへたり込んだ。 (私は頑張って生まれ変わったのに。  博幸くん、ひどすぎる) 「大丈夫ですか?」 優しい声で囁かれ、憔悴していた麻友子はゆっくりと顔をあげた。 そこにはあの喫茶店のイケメン店員くんがいた。 イケメンくんは麻友子に見惚れており、優しく手を取り助けてくれた。 「‥‥‥ありがとう」 「足、すりむけているよ!傷口からばい菌が入ったら大変だ」 そういうと、大急ぎでカバンの中を漁り出した。 間髪入れずに別のイケメンがハンカチを手に割り込んでくる。 「これで傷口を押さえてっ」 「僕っ、絆創膏持ってます!」 「消毒が先だろう!はい、マキロン!」 「抜け駆けするなよ!」 麻友子の目の前でバトルが始まった。 何が起こっているのかわからず、麻友子は固まってしまう。 こんなすり傷、大したことないのに。 なぜ、張り合って治療しようとしているの? その時、校内No.1イケメンが動けない麻友子の隣にきた。 次の瞬間、麻友子を軽々とお姫様だっこしてしまった。 「僕が保健室にご案内しましょう」 華麗にターンをして、麻友子を校内につれていこうとした。 「私、重いし、下ろしてください!」 No.1はクールな笑みを浮かべた。 「こんな華奢な君が重たいと?僕がしっかりお運びしよう」 「結構です!」 麻友子はイキのいい鮮魚のように跳ね、イケメンの腕からなんとか逃げた。 そして、一目散に校門めがけて駆け出した。 校門まで数メートルの距離。なのに、8人の男子に連絡先交換を懇願された。 (な、な、なんなの。この状況!  わけがわからない!) 男子の波をかき分けて、なんとかその場から脱出する麻友子であった。
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