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「もう一本もらうねぇ」
「おい!」
気のせいだ。
「俺の分も」
「はいはい」
と、窓の外が明るくなったかと思えばドォーンと轟き、人々の歓声が挙がったのが、窓越しでも分かった。
「花火大会も今日だっけ? あっ! さくら! 大丈夫か⁉」
猫は花火の音が苦手と聞いたことがある。
冷房のために窓は締め切っていたが、外からの音が全く聞こえないわけではない。
慌てた便利屋が、部屋のどこかにいる三毛猫にそう尋ねれば、微かな返事。
「あなたの声の方が大きいって」
「大丈夫そうだな」
メリルとノルンがさくらのために作った段ボールの隠れ家が、この事務所には至る所にある。
便利屋はそれらがどこに設置してあるのか知らないが(便利屋に知られた翌日には場所が変わっている)、恐らくそのどれか一つに身を隠しているのだろう。
それなら一先ず安心だ。
と、帰蝶が便利屋の手を取る。
「ねっ、屋上行こ」
帰蝶は子どものように笑顔で言った後、便利屋の手を引っ張った。
ふわりと彼女の九つの巻き毛が揺れる。
「おっ、おい……」
「あ! ビール!」
「ッだぁ⁉」
「あ、ごめん」
勢い良く振り向いた帰蝶の巻き毛に便利屋の頬は思い切りぶたれた。
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