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待ち伏せている間、ずっとどう切り出すか考えていた。
着てきた黒いパーカーのポケットに手を入れ、美知の“SOS”のページをコピーした紙を取り出す。
「美知の遺品、ありがとうございました。これは、美知の遺品のコピーです」
「コピー?」
美和が差し出したコピー用紙を手に取った田代の顔に、動揺の色が浮かぶ。
それはそうだろう。彼が、美知を追い込んだ証拠に他ならないのだから。
しかし彼は、
「だがこれが、美知の直筆だという証拠もないでしょう。それに、彼女の妄想かもしれない。事実だという証拠はないでしょう」
と何ひとつ認めない。
それを聞いて、美和は安心した。
ここで素直に認めて謝るような人じゃなくてよかった。嫌な人でよかった。
それなら、復讐してやるという強い意志を曲げなくて済む。
復讐を遂げたとしても、後悔することも罪悪感を抱くこともないだろう。
「そうですか」
「まさかもう証拠として提出したんじゃないでしょうね」
「してませんよ。するつもりもありません」
美和の言葉に、田代は安堵したような表情を浮かべた。
「美知の遺品が少なかったので、まだここにないか探してもいいですか?」
「……来てしまったものは仕方ない。何も出て来ないでしょうが、どうぞ」
アルコールが入っているからか、田代は意外にもあっさりと承諾する。
美和はお邪魔します、と靴を脱いで家に上がった。
美和が、美知の遺品を探すフリをする間、田代はワインを飲み始めた。
まさか美和からの恨みを買っているなどと思っていないようだった。
傲慢な男。
美和は、ワインを悠長に飲む彼を横目にそう思った。
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