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暫く遺品を探したが、彼の言うように何も出て来なかった。
期待はしていなかったが、美知の遺品が少ないことに改めてショックを受ける。
彼はほとんど何も、美知に買い与えなかったようだった。
田代のいるリビングに戻ると、彼はワインボトルを1本開けてすっかり出来上がっていた。
「美知じゃないか。どうしてそこにいるんだ。俺は、夢でも見ているのか?」
美和と美知を見間違えたらしく、田代はそう言った。
二卵性の双子で、容姿はまるで違うにも関わらず見間違えるということは、どうやらかなり酔っているようだ。
「おい美知、新しいワインを持って来い。酒が足りん」
美知がいるとわかるや否や、田代は口調を強めた。
美和が立ち尽くしていると、彼は近づいて来て、
「まさか死んでも、俺のとこに来るなんてな。そんなに俺が好きか?痛い思いをしたのに」
と美和の耳元で囁く。
間接的に、田代がDVを認めた。
美和はワインを取りに行くフリをして、キッチンへ向かった。
美知を追い詰めたにも関わらず、反省していない田代の言動に、頭の中でスープが沸騰しているような怒りを覚えた。
手袋をはめると、洗って水切りラックに置いてある果物ナイフを手に取った。
それを後ろ手に隠し、出来上がってソファに座っている田代に近づく。
無防備に見える首筋にナイフを当て、田代が動かないよう手で肩を押さえつけると、頸動脈を切りつけた。
頸動脈は、太い血管があるため、一度大量に出血すれば簡単には止血できない。
酔っ払っている田代が家にひとりでいるのなら、尚更だ。
果物ナイフを田代の手に握らせ、人気のない住宅街へ飛び出す。
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