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◇◆◇◆
――美知が結婚してから、様子がおかしかったのは家族皆が感じていた。
美和も両親も、警察に相談した。
美知の首吊りには不審なところはなく、事件性はないと言われた。
他殺ではなく、誰がどう見ても自殺だと。
しかし美和は納得できなかった。
仮に事件性はなくても、美知は田代との結婚で精神を蝕まれていたのだ。
胸の変形や、首に残っていた手形がDVでないのなら何だと言うのだろうか。
物音に怯え、何においてもすぐ謝罪の言葉が出てくるのは、日常生活の延長線としか思えない。
いつも、田代が室内で暴れる音に怯えていたのでは?何かあれば機嫌を損ねないために謝っていたのでは?
美和はそう考えた。
しかし、美知が自殺であるため田代に責任を問うことはできなかった。
美知が最期に送って来たメッセージの送信が取り消されているため、美知がSOSを出していた証拠は残っていなかった。
美知の遺体から痣や暴行の痕跡は何も出ず、DVの証拠となるものも掴めなかった。
もし本当に田代が、美知を精神的に追い詰めていたとしても何も証拠がないため責任を問えないのだ。
証拠がなければ、裁判を起こすこともできなかった。
為す術がない美和たちに、田代はこう言った。
「証拠さえあれば、いつでも応じますよ。こっちは」
そして、あざ笑うかのように、「まぁそんなものが本当に見つかればの話ですけど」と吐き捨てたのだった。
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