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シトリは、しみじみと息をついた。
「耳に痛い言葉だよね。お姉ちゃんもわたしも、頭では理解しても、つい試してみたくなる性分でさ。ルアナちゃんの祖先にあたるショーや、ほかの高官たちに、いつも怒られてた。この間、エジャヴィオッツの神殿で、きみたちを襲った晶機衛だってそう。本当にそんなものが必要なのか、って官に問い詰められてたけど、結局開発が強行されて……」
シトリは肩を落とした。
「言い訳になっちゃうけど、わたしたちも必死だったんだ。銀瞳黒竜に旺州と銀焔を託されて『万蝕の災い』からアウンダールを救おうと。天煌の神々や幻獣たちでさえ手に余る存在から、どうやって世界を救うのか。わたしたちの使命を知ってたから、これに関わる官たちも強くは反発しなかった」
ロイツは視線を横に向けた。精霊結晶の輝きと、この世界にあるはずのない陽の光に照らされて、荘厳な煌晶宮は目に痛いほど白く輝いている。ロイツの命の源となった女性は、この場所で日々模索し、最後に身命を賭してアウンダールを破滅から救った。
「いま樹州で起きている異変は、ぼくじゃないと解決できないの?」
やがて、ロイツはそうたずねた。シトリは頷いた。
「オルヴレンディアは、お姉ちゃんの氣を宿してるロイツくんじゃないと扱えないはずだから。樹竜のもとに行くには、オルヴレンディアは必須」
ロイツはシトリを見て笑った。
「わかった。救ってくれって頼まれて、断れるわけないもんね。少なくとも、ぼくの大好きなお伽噺の主人公は、そんな薄情者じゃなかった」
シトリは一瞬きょとんとした表情で首をかしげたが、すぐに、ああ、と納得するように笑った。
「『ロオイの冒険』のことだね。お姉ちゃんの旅を題材にした物語……」
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