――告げる者、綴る者、語る者――

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――告げる者、綴る者、語る者――

 ティアレンヌは夢をみていた。あいまいなかんかくが全身をつつんでいる。  どこかの高台にひろがる庭園にたっている夢だった。色とりどりの花が風にゆれてさきほこり、透明な水がながれる石張りの水路があり、庭園をかおった石の欄干にもうけられた篝火が赤くもえていた。  欄干の先、眼下には白い宮殿がのぞめた。壮麗な御殿が無数にたち、淡い虹色の精霊結晶が、ぼんやりと光をはなちながらいたるところにそびえている。  宮殿のさらに奥、裳裾(もすそ)をひくようにくだった斜面には、扇状の街がひろがり、街をかこう壁のむこうには大河と森がぼんやりとかすんでひろがっていた。  それらを、ぼんやりとながめていたティアレンヌは、ここがどこなのかきづいて、はっとまたたいた。 「ここは、煌晶宮(こうしょうきゅう)?」  あいまいだった意識が、はっきりしてくる。  世界(アウンダール)中央にひろがる原初の大地――旺州(おうしゅう)。さらにその中央にそびえる、天地をつらぬく極大の樹――神樹の根もとにきずかれたエルヴァーヌの王宮。  王の名はリアトス。幼名をイオルという。かつて世界(アウンダール)をめぐり十二の幻獣をさがしあてた偉大な旅人であり、原初の二大竜の一柱である銀瞳黒竜(ぎんどうのこくりゅう)から、旺州をたまわった偉大な女王だ。  ティアレンヌがたっているのは、煌晶宮の最奥にそびえる塔――竜核の塔の頂にある展望台だった。王宮の先にひろがっている街は、エルヴァーヌの首都ティネンティノーカム。エルヴァーヌの言葉で「大いなる都」を意味する。  なぜ、という疑問が思考を支配した。――自分はたしか、珀瑤宮(はくようきゅう)の自室でやすんでいたはずだ。  珀瑤宮は、ここからはるか西のはてにある大地――樹州(じゅしゅう)にある。樹州西部にひろがる古い森と、猛々しい樹々におおわれた峡谷がいくつも形成されている高原地帯――アルターヴ大高原にすむ妖精族の王宮だ。王の名はラヴィルド。――ティアレンヌの父だ。
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