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人気のない建物に入り、ふらついたロイツを椅子に座らせた彼女は、かぶっていたフードを背におろした。
「ありがとう、ユキカ……」
「うん」
と、苦笑を浮かべて頷いたユキカは、狼の耳をピクリと動かした。
「ロイツくんを追ってた連中も、移動したみたい」
扉の外の気配をうかがうようにすると、ユキカは椅子に座ったロイツを振り返り、その前に膝をついて傷を負った左腕を診た。
「なんでここに?」
「まあ、いろいろとね。事情はあとで話すよ。――痛む?」
「ううん。痺れて、なにも感じない。武器に麻酔薬が塗られてたみたいで」
「これ、外すね」
ロイツが頷くと、ユキカは革の手甲を外し、傷をおさえていた布をはがした。
「傷は浅いし、これなら縫わなくても大丈夫そう。血も止まってるし。ただ、体内にまわった薬は、どうしようもないね。解毒薬は飲んだ?」
「液状のやつ、小瓶、半分ほど」
「じゃあ、もう一本、飲んどこっか。解毒、間に合ってないみたいだし」
言いながら、ユキカは自分の荷から解毒液の入った小瓶を取り出し、ロイツに渡した。それをゆっくり飲んでいる間に、ユキカは傷の手当てにとりかかった。マントの下に背負っていた背嚢をおろし、中から布と小さな竹筒、乳白色の軟膏薬を取り出す。布に竹筒の中身を染み込ませ、傷口を洗った。匂いからすると酒だろう。
傷口についた血をきれいに拭うと、次に軟膏を塗った。傷に冷たい彼女の手が触れてロイツはピクリと震えたが、痺れて痛みは感じない。むしろ少しくすぐったく感じた。
二本目の解毒液が効いてきたのか、ユキカがロイツの腕に包帯を巻き終わるころには、だいぶ気分がよくなった。
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