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ヨスガは机の上に置かれたロイツの左腕の手甲を手に取り、裂けた部分を眺めた。
「革の手甲がスッパリ切られておるな。しかも、森衣ごと。そうとう鋭い刃のようじゃ」
ロイツは頷き、切られた森衣の袖を見た。
妖精族が親しんで着る森衣は、非常に軽くやわらかな肌触りだが、普通の服よりはるかに丈夫にできている。妖精族が特殊な製法で紡績した糸を使い、織目に術を施した布を使用しているため、軟な刃物では、本来、切ることはできない。そんな森衣が、革の手甲ごと切られてしまっている。
「その得物は、間違いなく晶器の類じゃろう。しかも、官許の武器屋で売られているような粗末なものではなく、もっと高価な代物。そんな物を持っているということは、その相手はかなり裕福な家の者か、それを与えた誰かが、そうとうな権勢を有しているか……」
ヨスガは手甲を机の上に戻し、軽く息をついた。
「加えて、我らの情報網ですら把握できない相手となると、とてつもなく強大な組織である可能性が高い」
「まさか、マパクの報復ですか?」
強張った表情でユキカは聞いた。
縁海をはさんで煌倭の西隣にある国マパクは、四年前、縁海に封印された仙獣――鯤蜷を復活させるための魔道具――淡水晶を求めて樹州に潜入していたが、ロイツによってその野望がくじかれた。さらに、煌倭、ホウアン、ロンディアルによって同盟が結ばれ、マパクは三国に包囲される形となってしまった。
ヤヒメ、センリ、フリネは、マパクの報復からロイツを守るため樹州に残り、これに加わるためにユキカも派遣された。
しかし、ヨスガは難しい顔をしたまま首を横に振った。
「おそらく違う。もしやつらの報復だとしたら、一年以上もロイツを監視するだけで、なにもしない理由がわからぬ」
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