15 竜核のありか

5/19
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/430ページ
 リーメル評議会憲章の原文が保管されている収蔵庫の情報収集とともに、侵入に必要な道具類の準備が着々と進んだ。  そして、ユキカが予告した通り、二日後の夜に作戦が決行された。時刻は衛兵や職員が最も気を緩める閉館間際。収蔵庫の地上にある修繕室で仕事をしている職員が、退室する瞬間を狙う。  閉館の刻限が近づく中、公文書館から来館者が続々と出ていく正面玄関へ、清掃員に扮したセンリとフリネが、複数の清掃員にまぎれて近づく。玄関前で衛兵から身分証の提示と、台車に乗せられた清掃具をあらためられ、それに応じて中に入った。清掃員の身分証は、昼間のうちに偽造していた。  中に入ると、センリは右手を口に当てた。手中には小さな笛があり、それを一定の間隔で吹いたが、笛から音は出ていない。  この笛は、獣笛と呼ばれている。人の耳には聞こえない音を発し、獲仔師や調教師が特に気性の荒い騎獣を慣らすために用いる。  煌倭の軍隊では、この獣笛を仲間との連絡に使っている。獣の耳を持つ半獣は、鍛え方次第でこの獣笛の音を聞くことができ、複数の吹き方によって遠くの仲間と意思の疎通が可能になるのだという。そのため、煌倭の陸軍、侯都軍では一個什士隊に、必ず一人は半獣がいるらしい。  センリとフリネは、館内を清掃しながら衛兵や職員の様子を観察し、獣笛を使ってそれをヤヒメたちに伝え、収蔵庫に侵入する彼女らをサポートするのが役目だった。  ほかの清掃員とともに展示室の奥へと進み、収蔵庫のあるほうへ近づいていく。やがて、センリとフリネの耳に、ヤヒメが鳴らした獣笛の音が届いた。  ――これより、侵入を開始する。
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!