15 竜核のありか

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 夜陰があたりを暗く染める中、ロイツ、ヤヒメ、ユキカは、公文書館の裏に広がる疎林の中に潜んでいた。三人は全身黒ずくめで、頭には黒い頭巾、顔にも鼻と口をおおうように黒い布を巻いた。  目の前には収蔵庫を囲う、堅牢な壁がそびえている。  ヤヒメとユキカの耳には、センリの獣笛の音が絶えず届いていた。それを聞くだけで、館内の様子、衛兵や職員の動きが鮮明になる。  しばらくして、収蔵庫付近に到達したとセンリから連絡が来て、ヤヒメは手の中の獣笛を吹いて侵入開始の合図を送る。ユキカと軽く視線を交わしてヤヒメは、疎林から飛び出して壁に近づいた。  背中を壁に貼り付けて、周囲と内側に人の気配がないことを慎重にたしかめ、疎林で待機していたユキカに合図を出す。ユキカは単発式の(いしゆみ)を構え、ヤヒメの真上のほうに狙いを定めた。放たれた矢は、鈍い音をたてて壁に突き刺さった。  三人はそのまましばらく息をひそめた。矢を放つ音に反応する気配がないことをたしかめ、ユキカは別の弩を取り、空いた弩はロイツが再び弦を引っ張って突起に引っかけ、()に矢を乗せた。  単発式の弩は貫通力と命中精度が高く、弓のように弦を引きながら狙いを定める必要もないため比較的扱いやすい武器ではあるが、矢の装填には時間がかかる。そのため、あらかじめ弦を張り矢を装填しておく。矢は返しのついていない鏃と鋼の短い矢柄を使った。  続けて放った矢は、一矢目の上のほうに突き刺さった。さらに三矢、四矢、と壁の上部を目指して次々に放つ。最後の矢が壁の上部に刺さると、ヤヒメに合図を送る。  合図を受けたヤヒメは、軽く助走をつけて飛びあがり、突き刺さっている矢を伝って壁をのぼっていった。  壁をのぼり切ると、ヤヒメは内側を確認した。篝火がいたるところに置かれ、人が身をひそめられそうなものが一切ない草地に、箱状の建物があり、その向こう側にそびえる巨大な公文書館と回廊でつながっていた。公文書館の手前には、たくさんの灌木が壁を作るように植えられ、枯葉を集めている清掃員の姿があった。  箱状の建物の天井は一面ガラス張り。中に、もう一つ建物が入っているという、不思議な構造をしている。調べたとおり、衛兵は五人だけ。うち二人が、篝火に薪を足しに歩き回っていた。
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