美人若女将

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美人若女将

私は、ある山間部に佇む老舗旅館の跡取り娘で現在若女将をやっている。 旅行雑誌にもよく取り上げられて美人女将なんて言われている。 その為、泊まって頂いているお客様のお部屋に顔を出して挨拶するのも業務の一つとなっている。 しかし、今日の離れのお客様にご挨拶するのは気が重い。 仲居頭に「本当に行かないと駄目かしら?」 と問いかける。 「ええ。お気持ちはわかりますが…」 仲居頭は俯いたままそう返す。 離れは先日ちょっとした事件が起きた。 離れにお泊まりのカップルが不倫旅行で奥様が乗り込んでくるというドラマなどでよく聞く話。 そして本日、一人の女性が離れにお泊まりにいらした。 白いツバの広い帽子を目深に被り白い服を着た黒髪で顔面蒼白の幽霊のような女性だ。 受付でもどこか挙動不審な様子で、離れで自殺でもされたらたまったものではないと言うことで通常なら最後に挨拶をするはずの離れに一番に向かっている。 そして離れに到着してしまった。 深呼吸をして、お客様に声をかける。 「失礼致します。お客様、今よろしいでしょうか?」 「…はい」 小さく微かな返答があった。 仲居頭が襖の前に座り両手で襖をゆっくりと開ける。 私は中に入り襖の前で正座をする。 仲居頭が中に入り襖を閉めたあと仲居頭とタイミングを合わせてゆっくりと礼をする。 顔をあげいつものように笑顔を作り挨拶をした。 「本日は都築旅館にようこそお越し下さいました。私若女将の都築綾乃と申します。」 そして、旅館の案内、食事の案内など一通り説明を終えた。 その間女性は普通に対応していたが、横向きに座っていた女性は髪が顔にかかっていて表情はうまく読み取れなかった。 そして何故だか背筋が凍るような不気味さが漂っていた。 「何かありましたらそちらのインターフォンで受付までお知らせ下さい」 そう言って礼をして、立ち上がる。 仲居頭はなぜか険しい顔をして逃げるように襖を開けて先に出てしまう。 いつもなら私が出てからまた振り返って座り直し礼をして仲居頭は襖を閉めて帰るのだ。 (待って、置いていかないで〜)心の中で叫んだ。 しかし、私は腰に違和感を感じて振り返る。 座椅子に座っていた女性は目の前にいて後ずさった。 何かブツブツ言っているが何を言ってるかはわからない。 違和感を感じた腰を触るとべたりと暖かい血が流れていた。そこにはナイフが刺さっていた。 「…っ」 ※※※ 目覚めると私は腰を抑えていた。 なんだかむずむずする腰を触るが血はついてない。 「…こっわ」 目覚めると朝で、自分の部屋のベットの上で、私はもちろん美人若女将ではなくただの本屋の店員である。 そして夢なんだが、起きてから気づく。 夢の中で私を刺したのは不倫旅行に乗り込んできた奥さんで、新婚旅行であの離れに泊まっていたのだと。(夢だけど) ⭐︎⭐︎⭐︎ ※ちょっとオムニバス風に私が実際に観た夢で記憶に残ったものを書いていくという作品です。 因みにこの夢は本当にめちゃくちゃ怖かった。( ; ; )何年も前の夢なのに未だ覚えてるし、起きた時腰に手を当てた状態で目覚めたよ。
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