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15分後。
ぐったりとベッドに身体を投げ出して、翡翠は荒く息を吐いていた。脚の間が気持ち悪い。堪らない喪失感に身体の芯から力が抜けていくようだ。何度売らされても慣れない。
しかも、男は自分が出すだけ出したら、それで終わりだった。翡翠は一度もイってはいない。身体の奥がじんじんと疼いて、それが堪らない嫌悪感になって翡翠を苛んでいた。
「あー。漲ってるわー。こいつ“魔光”だけは、マジで最高。また、でかいヤマの前には頼むわ」
ひらり。と、手を振って男は部屋を出て行った。
「来られるものなら……来てみろ」
その背中を何も言わずにドアが閉まるまで見送ってから、久米木は呟いた。それから、ソファから立ち上がり、翡翠の元へと歩み寄る。
「酷くやられたな」
ぐい。と、顎を掴まれて顔をあげさせられて、見つめてくる黒い瞳から翡翠は顔を逸らした。顔を見られるのも、男の顔を見るのも嫌だった。
「“呪い”が切れたか。それにしては、随分と悦さそうな顔をしていたな」
つ。と、指先が翡翠の立ち上がったままの場所に触れる。その指の動きに身体が反応を示しそうになって、翡翠は身を捩ってその指を逃れて、久米木を睨みつけた。
「……さわ……んな」
けれど、今度はその瞳を暗く黒い瞳がじっと見つめてくる。まるで、昏い穴だ。翡翠は思う。じっと見ていたら、引き込まれて落ちてしまいそうだ。それが怖くて翡翠は思わず視線を逸らしていた。
けれど、顔を逸らしても、何も隠すことなんてできない。まだ、両手を拘束されたままなのだ。さっきまでの行為の跡も、殴られた傷も、涙の跡も。無遠慮な久米木の視線に晒されている。
「それで、いいのか?」
にや。と、歪んだ笑顔を浮かべて久米木が言う。その顔が、翡翠は一番嫌だった。
「……うるさ……い」
久米木は翡翠がかつて思いを寄せた男だ。
けれど、今は、心の底から憎んでいる。
「相変わらず、気が強いな」
くく。と、喉の奥で笑って、久米木は翡翠の両手を解放した。
代わりに、翡翠の肌や、久米木の腕に書いてある文字と同じような文字の書かれた鎖のついた足かせを足首にはめる。
「まあ、俺の手がいらないなら勝手にするといい。次の客は明後日だ」
する。と、翡翠の鎖骨から首筋のあたりを撫でて、久米木は立ち上がった。そんな微かな刺激だけで、翡翠の細い肩がびく。と、大袈裟に反応を返す。それから、それが悔しくて頬が染まる。
そんな反応に笑みを濃くして、久米木は背を向けて歩き出そうとした。そこで、ふと。足を止める。
「愛しているぞ。俺の翡翠」
くるり。と、振り返って久米木はのしかかるようにして、翡翠の唇を塞いだ。抵抗する間もなく、熱い舌が歯列を割って入りこんでくる。久米木の唾液の味。この男には散々抱かれた。だから、この味を翡翠はよく知っていた。
「ん……っん……む」
必死で腕を突っ張って跳ねのけようとするけれど、腕には力なんて入っていなかった。散々客に犯されて、身体は疲れ切っていたのだ。その上、身体は高ぶったまま放置されて、力なんて入るはずがなかった。
思うさま翡翠の咥内を味わって、久米木の唇が離れる。
「お前のその顔を一番愛してる」
呟いて男は背中を向けた。
翡翠の頬には大粒の涙が零れていた。
「じゃあな。精液の始末はしっかりしろ。風呂に入っている間に、部屋の掃除をさせておくからな」
しまったドアに翡翠は枕を投げつけた。
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