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偏愛《竜side》
ひー兄がいるから、俺は生きてる。
ひー兄だけいれば、それでいい。
他は何も望まない。
それなのに―…
「竜…緋禄は長くないって」
「え…?」
高1の春。
号泣しながら母さんにそう言われ、俺の頭は真っ白になった。
1つ上の最愛の実の兄。
昔から体が弱くて入退院を繰り返していたけど…
「…母さん、嘘…だよね?」
「あと1年持てばいいって…」
いやだ。
いやだよ。
ひー兄がいなくなったら、俺は何のために生きるの?
「嘘でしょ?だってあんなに元気なのに…」
「ごめんね…私が丈夫に緋禄を産んであげられなかったから…ごめんね竜…」
狂ったように震え、泣きながら俺に長時間謝罪をする母さん。
その数日後、母さんが自殺したとひー兄から連絡が入った。
父のせいで精神病を患っていた母さんは、ひー兄の体が弱いのももうすぐ亡くなるのも自分のせいだと思い、命を絶った。
「全て私のせいです」と、そう遺書に記載されていた。
「竜…」
「ひー兄…」
俺にはひー兄がいる。
繋がれているひー兄の手は温かい。
大丈夫、ひー兄は生きてる。
生きるんだ、これからも。
そう必死に思うことで現実を見ないことにした。
昔から病弱だったひー兄に付きっきりだった母さん。
父は母さんを異様に愛していたから、実の息子なのに母さんを奪う病弱なひー兄が気に入らなくて、目の前で暴力や研究段階の薬を飲ませたりしていた。
それを見て母さんが止めようとすると、俺たちの目の前で精神的暴力や、性的暴力が行われた。
だからひー兄は反発せずに父の思うがままだった。
更に体が弱くなるひー兄に母さんが付きっきりになるとそれは余計に酷くなった。
母さんは徐々に精神を病んだ。
ギリギリの精神で、離婚を切り出すと父の目が変わった。
俺はその目に子供ながらに恐怖を感じた。
だから、
「俺は父さんが好きだから。父さんといる。ここに残りたい」
だからまだ小学生だった俺は嘘をついた。
母さんとひー兄を守るために父の元に残ることに決めたんだ。
「ありがとう竜。僕には竜だけだよ」
それから父の愛は母さんから俺へと代わった…
初めて犯されたのは、俺が中学にあがった時だった。
風呂上がりの脱衣場で、俺の裸を見た父が興奮してその日から何度も犯された。
「愛してるよ、鸞」と母の名前を連呼しながら何度も。
1度だけ強く抵抗すると、母とひー兄が今何をしているのか身辺調査をしていると言われた。
それは俺が抵抗すれば、父が二人を見つけてまた酷いことをするつもりなのだと察した。
それからは抵抗できなかった。
俺が我慢すれば、父の機嫌を取れば、大切な人を守れるんだ。
大切な人が傷つくのが嫌だから。
だから我慢してきた。
そんなことがもう数年。
そして父は製薬会社の幹部となり、薬品の研究も重なり仕事が激務で俺は学校が終わると家に一人でいることが多くなった。
俺を犯すために家政婦は雇わず、たまに帰ってきて俺を犯す。
そんな日常だった。
父の車が駐車場に停まる音、玄関の鍵を開ける音が聞こえるだけで震えが止まらなかった。
ある日、俺が高熱で倒れ登校してこない学校から父に連絡が入ったことをキッカケに寮のセキュリティもしっかりしている学校に編入させると言われた。
ひー兄がMY学園に通っているのを知っていた俺は、父にMY学園がいいと申し出た。
父は了承してくれた。
必ず父からの連絡に返信をすること。
長期休みには実家に帰ること。
それを条件に、家から出ることが出来た。
父は返信を忘れた回数を控えていて、その回数が多いといつも以上に酷く長時間犯されるので、どんなに忙しくても返信は怠らないようにしていた。
行為中、「鸞」と呼んでいたのもいつしか「竜」に変わり、父が母さんの名前を呼ぶことは無くなった。
だから父は母さんの葬儀にこなかった。
『鸞は亡くなったそうだけど、僕には竜がいるからね』というメッセージを聞いて、吐いた。
「大丈夫か、竜」
「ひー兄…」
本当に俺にはひー兄しかいない。
ねぇ、いなくなるなんて嘘だよね。
ねぇ、俺を置いていかないで。
ひー兄だけが、俺の生きてる理由なんだ。
他には何もいらない。
だからお願い、俺を置いていかないで―…
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