ギルドで待ってる

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 そんなイツキだけど、意外にも文芸部の中で浮くような存在にはならず、定例の部活動にも真面目に顔を出した。  そもそもイツキは、その見た目に反して、まあまあ成績優秀で、教師にも特に反抗的な態度をとらない、どちらかというと優等生であったのだ。  しかも、彼が作る小説の作風も、高校生にしては純文学的というか、保守的というか、おとなしいというか、現実的な情景を淡々と描くようなものだった。  僕は他人の作品を批評することは好きじゃなかったけれども、どうしても彼が作る作品と、その思い入れの程について聞いてみたくなった。  そして、入部から1ヶ月ほど経ったある日、二人きりで部室にいるときに、それとなく言ってみた。 「ねえ、イツキ君の作品って、なんか、すごく真面目だよね…。いや、真面目っていうか、その、お堅いというか、ええと…」 自分から話しかけておきながら、適当な表現が見つからないまままごついている僕に対し、イツキは、ふっ、と笑いかけた。 「俺の作品、物語に起伏がなくて、つまんないでしょ?」 「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて!文学的ってのは、こういうことなんだなって、そう思ってて…」 「あっはは!それはちょっといい意味で表現しすぎじゃない?…しっかし、ミチルは優しい奴だよなあ。それが作品にもよく表れてるよ」 「え、そうかな?」 「ああ。俺、好きだぜ、ミチルの作品」 「え、僕の?あんな、何の独創性もない作品が?」  僕の書く作品は、イツキとか全然違う、いわゆる異世界系。普通の高校生だった主人公が、ひょんなことからファンタジーの世界に転生し冒険に挑む、という、とてもありきたりな話だ。  自分でも、もっと違うお話を書いてみたいとは思っているけど、あいにく僕にそんな創造性はない。かと言って、イツキみたいな方向性の作品に挑むほどの気概もなかった。 「いや、そりゃ確かにストーリーはありきたりかもしれないよ。でも、人物設定と、その描き方は、すごく丁寧だよな。特に俺が好きなのは、戦いが終わって、登場人物たちがギルドで会話するシーンなんだ。自分はどんなところで生まれ育ち、何を置き去りにして、どんなことを経験し、そして、何を望んでいるのか…。それを語り合う場面が、ほんと味わい深いよ。よくあんなの書けるなあって、羨ましいんだ」 「そ、そう?ありがと…」  まさかそんなに僕の作品を褒めてくれるとは思わなかったので、どうしていいか分からず、下を向いてしまった。 「なあ、今度、俺の書く作品に、ミチルの書いた世界を登場させていいか?」 「え、どういうこと?」 「俺、ちょっと挑戦してみるわ。ミチルみたいな、ファンタジー系の作品。で、俺が考えた主人公たちが、ミチルの作品の登場人物に出会う。そんなのを書いてみようと思うんだけど、いいかな?」 「え!?ま、まあ僕は別に構わないけど」 「よーし、のんびりしてる時間ねえな!そうと決まったら、早速家帰ってストーリー考えてくる!じゃあな、また明日!」  そう言うと、イツキは、突然のことに何だか動悸のおさまらない僕一人を残して、部室を出ていってしまった。
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