第一章『新人の”後輩兼先輩”に嫌われている』

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第一章『新人の”後輩兼先輩”に嫌われている』

 二〇二〇年・十一月頃――世界は『コル・ウィルス新型感染症』の流行と感染爆発による混乱へ陥った。  コル・ウィルスは主に飛沫と血液を介して心臓と血管へ侵入し、循環器系と呼吸器系に異常な感染症状を起こす。  地球儀では極東の海に島々が浮かぶ『和国』も例に漏れず、コル・ウィルスの脅威に見舞われる。医療・経済・政治から日常を生きる和国人は苦境に立たされた。  ただし、二〇二二年に開発された予防接種(ワクチン)と同時に、感染拡大防止を図る海外・他島への『緊急渡航制限』が功をなしたか否か。  島ごとの感染者数も重症患者数も大幅に減少。  二〇二三年の現在、和国全体の市町村ごとの平均感染者数は危険期を脱した。  後はコル・ウィルスの感染発症と後遺症に悩まされる患者への治療対応。  他には、新型株のコル・ウィルス流入防止に備えて未だ"鎖国状態"が続いている。  未だ余談を許さない課題を除けば、医療現場は崩壊を免れ、人々も以前とは異なる日常生活を取り戻しつつある。  「皆さん、おはようございます! まだ少し暑いですが、朝日が心地よくなってきましたね。では、朝のラジオ体操を始めます」  和国の中西部の海に浮かぶ菊島。  中心部の紫陽花市陽光町に建つ立派な『アジサイ総合病院』。  敷地内の小さな別棟にある『アジサイ精神科デイケア』には、看護師長のかけ声が今日も元気に響き渡る。  「大きく〜腕を振って〜座っている方も〜足をピンと伸ばして〜」  朝の開所時から参加してきた患者の前に立つ『葉山小春』看護師長の隣に"私"も並ぶ。  なるべく喉と腕に力を入れると、皆の見本となるべくラジオ体操を始めた。 ・
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