8人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
芥川賞の不思議な椅子
私は芥川賞作家と同じ椅子に座っていた事がある。
というより、同じ椅子に座っていた人物が後に芥川賞を取った。
ちなみに私は芥川賞と直木賞の違いもわからない。
同じ職場で同じ椅子に座り、同じ業務をしていた。
で、同じ椅子に座っていたのだから、何か書いたら面白い事が書けるのではないか、という勘違いで物を書き始めている。
けれど私はその作家先生に会った事も話した事もない。
芥川賞を取った時の作品を書店で購入し、その見事な装丁の本にサインも頂いた。
でも、お会いせずにサインを頂いたので、正直なところ全く顔も見た事のない『元同僚』である。
同じ時期に同じ椅子に座るという事は、想像して頂くとわかる通り、出勤日が違う。
それでこれは芥川賞作家と同時期に同じ椅子に座っていたら、何か面白い事が書けるのかどうか、という壮大な実験をしている事になる。
今までそんな実験をしていた人はいないと思うので、ひょっとしたら日本初の試みの可能性があるのです。
この椅子の凄い所は、座っていた人物が賞を取る程になった、という事ではないという事にお気付きでしょうか?
この椅子は私が入社する前からあったのに、その後私は23年もその椅子に座っていたのです。
そんなに長持ちする事務用椅子があるなんて、凄いと思いませんか?
そういう事を書くと、そんなの大した事はない、自分が今座っている椅子はもっと長い間座っているよ!と言う方が現れるかもしれない。
でも、その椅子に座っていてあなたが賞を取る様な作家になったら、同じ椅子に座った人が自分も面白い物が書けるかもしれない、と勘違いして何か書き始めるかもしれないのです。
だから、その椅子は凄いのです。
誰かに物を書かせる不思議な椅子なのです。
最初のコメントを投稿しよう!