ヴィジュアル史上主義

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ヴィジュアル史上主義

人間は顔を見る。 別に不思議な事ではない。 営業の部長も営業マンを採用する時の基準は、まず顔だと言っていた。 顧客が男ばかりだとしても、若い顔のかわいい男の子を採用するという。 すると、成績が全然違うのだと言っていた。 アクセサリーショップ経営の女性経営者も同じ事を言っている。 アクセサリーも美貌で売るのよ、と。 美しい販売員が売ると、売れ行きが違うのだと言う。 そうなると、『ひょっとこ』みたいな顔の自分はいったいどうやってこの世の中を生き抜いて行けばいいのだろう? 『おかめ』みたいな女は? しげしげと自分の持って生まれた顔を見てみると、私は厚い一重の瞼が重くのしかかる野暮ったい顔をしていた。 この瞼がクッキリ二重にでもなりさえすれば、美人に少しでも近付けるのではないか、と本気で思った。 それで、瞼を無理やり上げてみると、少し二重のようなラインが見えてきて、若干それなりになったのである。 おしい、もう一息、という所でまた重みで一重に戻ってしまった。 そういう事を試してみた人はいないだろうか? 実は私は、眼瞼下垂という症状によって年齢と共に瞼が下がって来た。 そしてそれを持ち上げているうちに、厚みのある一重がクッキリとした二重瞼になってくる。 しかもそれが定着して、今は天然の二重瞼のままになっていた。 けれど美人になった訳ではない。 私の場合、東南アジアのテイストが強くなって日本にいながら外国人に間違われるようになった。 知らない東南アジア系の人が近付いて来る。 すろと、わかりもしない言葉で気さくに話しかけられた。 日本語で応対すると、相手は困惑して逃げて行ってしまう。 そんな事が続いた。 挙げ句に、某有名ファストファッションの店舗に買い物に行くと、モップを持った店員が寄って来て、私と棚の間を磨き始めた。 そのままモップを私の足の下へどんどん近付けて来て、私を棚から遠ざけて行く。 そうしていつの間にか、私は店から追い出されていた…。 ベトナム人窃盗集団が、万引きをしてその店の商品をどんどんと国外へ持ち帰る事件が多発していた時期だった。 間違いなく私は、何か勘違いされている。 そういう訳で私は美人にはなれなくて、外国人になったらしい。 残念ながら、特にその事でメリットは発生していない。 そんな訳で外見で人を判断する基準は曖昧で、矛盾を感じる。 暗い夜道で駅に向かっていたら、2人組の女性が前を歩いていた。 振り返った女性達が私を見て「きゃーっ!」と叫んだ。 そしてその2人はそのまま走り去って行った。 私はその叫び声と恐怖の顔を見てもっと怖かった。 何があったのだろう? いったい私は何に見えたのだろう? まさか、変態?!
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