沖太一は劣等感で出来ている

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 合格通知が届いたのは三年前。小学六年生の時だった。今現在、太一は中学三年生の夏を迎えている。しかし楽しかったのは中学一年生までだった。  というのも、昨年とんでもないモンスターが入学してきたことで、太一は再び劣等感に押しつぶされそうになっている。  同じ事務所の先輩アイドル、志藤歩がまさかの同じ学区内だったのだ。  志藤歩。  太一より一つ年下ではあるが、事務所歴は一年先輩。噂によれば社長の従兄弟の息子だという。  どこまで本当かは分からないが、オーディションを唯一パスした研修生と言われていて、愛嬌のある性格と整った可愛らしい顔を武器に、今人気が急上昇している。テレビ出演、雑誌掲載など、もちろん事務所では第一線で活躍中だ。  そんな太刀打ち出来ない先輩アイドルが昨年、同じ中学に入学してきたことで、知名度の欠片もない太一は生徒達から憐れむような目で見られることになっている。それだというのに志藤は、どこまでも太一のプライドをへし折り薙ぎ倒し粉砕する。 「たいちゃん、たいちゃん」  そんな風に耳をおっ立て、尻尾をフリフリ、金魚の糞のごとく太一に付き纏うのだ。それを「オレは人気アイドルとこんなに仲が良いんだぞ」と優越を感じ、ひけらかすほど太一はミーハーでもなければバカでもない。出来ることなら自らが転校するか、志藤に転校して欲しい。それが叶わないのであれば、登校拒否するか、登校拒否して欲しかった。  無論、真面目な太一には転校も非登校も出来るわけはなく、こんな時でさえ他人任せだ。是非、志藤にどちらかを実行して頂きたいと願っている。  こっちに来るな、あっちへ行け、話しかけるな。一体どれだけ心の中でそう叫んだだろうか。残念だが、そんなことは本人目の前に絶対に言えない。それは事務所の先輩だからというわけではない。志藤には微塵の悪気もないからだ。天然で太一を傷つけている。そしてそれに当然ながら気付いていない。  そもそも、志藤は太一に対して悪いことなど一つもしていない。殴るでもない、悪口を言うでもない。なんなら太一を崇めているくらいだ。  たいちゃんは頭がいいんだねとか、やっぱり友達が多いねとか、優しいから大好きだよとか、弟の陽一よりよほど可愛い弟のようにじゃれついて来る。そんな志藤をどうやって遠ざけるというのだ。無理難題とはこの事である。  そしてこの日も自転車置き場で太一は志藤に捕まった。 「おっはよ!」  毎度毎朝、本物のアイドルだよな~、と感心する。艶やかな黒髪。大きな瞳。ピンクの唇。筋の通った綺麗な鼻。そして眩いほどの笑顔。誰がどう見たってアイドル以外の何者でもない。これぞアイドルだ。 「おはよ」  太一が返事するや否や、志藤はハッと思い出したように目を見開いた。 「そう言えば見た!? 昨日のドリームキャッチ!」
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