美春(5)

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美春(5)

 お迎えに向かっていると諒ちゃんが見えてきた。  見つけてほしくて大きな声で鳴こうと喉を震わせた瞬間、前を歩く女性がバランスを崩した。  夏の暑い日、貧血でも起こしたのだろうか?   倒れる先は道路、車の数は多くないのだが、運の悪いことに大きなトラックが迫っていた。  ドライバーと目が合ったが顔面蒼白、ブレーキが間に合うとは思えない距離だ。  とっさに体が動いて女性を抱き寄せようとしたが、今の私は猫、それは無理というものだ。  うっかり人間のつもりになってしまっていたから勢いあまって道路に出てしまったが、すぐに方向転換して彼女を押し戻そうと体当たりしたが、私はトラックとの接触を完全には避けられなかった。  借り物の体なのに酷いことをしてしまった。  これでミハルが死んでしまったら、悔やんでも悔やみきれない。  衝撃ではじき出された私は、倒れて動かないミハルを見て血の気が引いた。 「やだ、ミハルごめんなさい。大丈夫?」  うっすら目を開けるミハルを見て胸をなでおろしたが安心できず、今すぐミハルを病院へと思うのに、めまいがして体が自由にならない。  事故の衝撃は魂にも影響するのだろうか?
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