諒(6)

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諒(6)

「大丈夫ですか?」  俺は駆け寄りながら女性に声をかける。  救急車を呼ぼうとスマホを取り出したところで、倒れる猫が見覚えがある赤いリボンをつけていることに気がつき、俺は蒼白になる。  スマホを落としたことにも気づかず、ミハルだと分かった猫に駆け寄った。  美春が中にいるはずなのにピクリとも動かない。 「諒ちゃん、ミハルを病院に連れてって。私のせいでミハル死んじゃうかも」  女性のことなど一瞬で頭から消えていた俺は、話しかけられて飛び上がりそうになる。  涙声の女性は声は聞き覚えがなかったし、顔も知らない赤の他人なのになぜ彼女は俺やミハルの名を知っているのだろうか?  混乱した俺の頭の中はぐるぐると渦巻いていた。  美春なのか?  それ以外考えられず彼女の顔をじっと見つめた。  顔色が悪い彼女が心配でたまらない。   「美春なのか? ケガは?」  震える声で俺は尋ねた。  声の振動だけでも、美春がはじけて消えてしまいそうで怖かった。
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