美春(6)

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美春(6)

 聞こえないとわかっていながら、私は駆け寄ってきた諒ちゃんに助けを求めた。  目が合った。  ミハルからはじき出された私は今、魂だけの存在のはずなのに、見えないはずの私を諒ちゃんの目がとらえて離さない。  ミハルを早く助けなきゃいけないのに、私も諒ちゃんから目がそらせなくて、時間だけが静かに過ぎていった。    永遠にも感じられた沈黙の時間を破ったのは諒ちゃんだった。  なぜかはわからないがやはり見えているのだと確信し、私は喜びで飛び上がりそうになる。  諒ちゃんは空の住人が怪我なんてするわけないのに、妙な心配をしてくる。  なぜだかひどく不安げで、再会をただ喜んでくれている顔には見えない。  諒ちゃん、怪我をするのは生きている人間だけよ、そう答えようとしたが声が出ず、目の前がぐらりとゆがんだ。  先ほどのめまいは気のせいではなかったのだ。  なにか強い違和感を感じながら、意識が遠のいていく。  さわれないはずの体を諒ちゃんが支えるのを、私は確かに感じた。
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