美春(8)

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美春(8)

 悪いと思いつつ私は、彼女の鞄の中を調べた。  彼女の家族に遅くなると連絡を入れておかなければならなかったし、もし彼氏でもいるようなら、諒ちゃんとの姿を見た人が噂にしたら申し訳ない。  次の彼氏ほしーっていう、つぶやきをスマホの中で見つけたので安心したが、そうでなければ諒ちゃんに女装してもらうしかないなと私は考えていた。  諒ちゃんはそれを聞いて、変装すればいいだけだろと、帽子とサングラスを買ってくれた。  諒ちゃんの仕事終わりの時間に再会したといっても、今日のフライトは昼過ぎで終わっていたので、けっこういろいろあったがまだ二十時だ。  もう二時間も話し続けているが話は尽きない。  私はぜんぜん話せなかった高校時代に戻って、やり直しているような気持になった。  高校でできた新しい友達に、付き合ってるのかとからかわれた諒ちゃんが、全力で否定したのがきっかけで話せなくなった。  私が見ているのに気づいた諒ちゃんは、気まずそうな顔をして私を避けるようになったのだ。  あの時、泣きまねでもしてから、おもいっきり笑えばよかった。  そうすれば諒ちゃんと話せないつらい二年半を過ごさなくてすんだのにと、私はすごく後悔している。
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