美春(2)

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美春(2)

 一年目の夏に戻ってみたら、諒ちゃんはわき目も降らずに勉強していた。  地元の大学は諒ちゃんでも余裕なのに、何を必死に勉強しているのかと思ったらパイロットになるつもりだと知って驚いた。  諒ちゃんの頭は勉強一色で、お墓参りは来てくれたけど、私が入り込む隙間はない。  のめり込むと周りが見えなくなるところは、昔から変わらない。  パイロットになった諒ちゃんを想像するだけで十分に幸せだと自分に言い聞かせたが、寂しい気持ちは消えてくれない。  生まれ変わったらCAになろうかしら?  ちょっとでも諒ちゃんのそばにいたくてそんなふうに思ったが、私はすぐに頭からその考えを追い出した。  東都音大に進んで、いずれは海外で活躍するのが夢だった私は、次も必ず音楽の道を選ぶと心に決めていた。  大好きだったビオラは、今は形見として諒ちゃんの部屋に飾られている。  もう一度音を聞きたいと思うのだが、猫の姿ではふれることもできない。  私は記憶の中のビオラの音を思い出しながら、諒ちゃんとの思い出の曲をミハルと歌った。
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